第42話・鬼来たる
「えーと、この子はいったい?」
十才くらいの、和風な着物を身をまとった『鬼っ子』を見て俺は困惑していた。
髪はミドルショート、顔付きは『女の子』だろう……多分。
そして真っ赤な肌に二本の角。昔話に出てくる典型的な『鬼』だ。
「こ、この方はアタシたちが住む山の、
そして見た通り鬼でもあって……」
野狐がおずおずと紹介すると、倉ぼっこと
「お、お久しぶりです」
「ようこそいらっしゃいました……だべ」
心なしか2人も、どこか落ち着きが無く―――
どうやら上司というか、力関係的にかなり上の存在らしい。
「鬼……という事でいいのかな?」
「鬼には違い無いがな。山の主でも神でも、好きなように呼ぶがいい」
ずいぶんとあっさりした答えが返って来たな。
でもまあ、言われてみれば鬼というのは昔話の定番でありながら、
そのカテゴリーはかなりあいまいだ。
〇〇山の鬼、という伝承や民話はポピュラーだし、それでいて地獄で
亡者を拷問する役割も持つ。人間が鬼になったという話も有名なものが
いくつかあるし―――
「それでその主様が、俺に何の要件で……」
「何、お主の身内についてちょっとな」
「?? まさかあのクソ兄貴、そちらにまでご迷惑を?」
「いやそういう事でも無いのだが」
そこで俺は腰を据えて、事情を伺う事にした。
「あー……野狐さんたちが、ねえ」
「よっぽど腹に
ただ人間を―――となるとちょっとなあ。
それでお主の意見も聞いてみたいと思ってな。
単純に、お主に興味があったという理由もあるが」
野狐と主の話によると、この前の合宿事件もあって……
その元凶である
「しかし、それはちょっと」
「やはり、まだ肉親の情が残っておったか?」
『鬼っ子』の問いに俺は首を左右に振る。
「証拠を残さないという条件ならいくらでも―――
って感じだが、
それ以前、あんなヤツのために手を汚してもらうのは、
申し訳ないっつーか」
それにどうせアイツは、誰が手を下さずとも自滅する。
何も野狐たちが関わる事はない、と思っていると、
「意外とあっさりしておるのう」
「ある意味報復する以前に勝手に落ちぶれていっているからなあ。
余計な手間をかける事もないよ。
確かにうっとうしい、ってのはあるけどさ」
それを聞いた鬼はカラカラと笑い、
「はっはっは! なかなかに面白い男じゃ!」
そこで倉ぼっこと川童がやや引き気味に、
「そ、それで……主様のご用件はそれだけ?」
「ミツに何か要求やお願いがあったりとかは無いだべか」
それを聞いた主はふぅ、と一息ついて、
「今日のところはまあ、顔見せといったところだ。
最近、アタイの地に住まう妖どもがやけに活気づいておってのう。
それで、その元となった噂の人間の顔を
ミツと言ったか。で、お主の方からは聞きたい事は無いのか?」
そう聞き返された俺は両腕を組んで、『うーん』とうなった後、
「えーと……主様、でいいか?」
「うむ」
そこで俺は
というか、明らかにしておかないとまた問題になりそうで―――
「主様は女の子……という事でいいんだよな?」
それを聞いていた人外3人組はアワアワと慌て始める。
もしかしてマズい事を聞いたか?
「ま、まあ……男っぽい言い方だし、外見も少年に見えなくもなかろうが。
アタイはこれでも女である」
少し顔を赤らめて『彼女』が答える姿に、さすがに罪悪感を覚え、
「いや悪い。俺、ここに来たばかりの頃は倉ぼっこを男の子、
野狐を女の子と勘違いしていた時があって」
すると『鬼っ子』はその2人に視線を移した後、
「はっはっは! そういう事か!
まあこやつらに関しては仕方あるまい! 特に野狐の方はな」
そこで人外3人組はホッとした表情になる。
すると『鬼っ子』のお腹がぐぅ、と鳴り、
「あー、俺も何か小腹が減ったし……ラーメンでも作るか。
主様も待っていてくれ、ご馳走するよ」
「よ、よいのか!?」
俺がうなずいて返すと、『彼女』は満面の笑顔になり、
「じゃ、じゃあ僕、手伝う!」
「アタシも何か……!」
「オ、オラも行くっぺ!」
と、すがるようについてくる倉ぼっこや野狐、川童を連れて―――
俺は台所へと移動した。
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