第43話・鬼帰る


「いや、馳走ちそうになった! こんなに美味いものを腹いっぱい食ったのは

 久しぶりだ!


 土産までこんなにもらって悪いのう」


鬼っ子の少女は笑いながら包みを背中にかつぐ。中身はお菓子やオニギリなどだ。


「この礼は必ずするぞ。困った事があれば言うがよい。ではまたなー!」


そう言って手を振ると彼女は、山の方へとあっという間に消え去った。


「ふへぇ~……」


「はあぁあああ……」


「やっと帰ってくれたっぺか」


同時に、一緒に見送っていた倉ぼっこ・野狐やこ川童かわこの人外3人組が、

力が抜けたように膝から崩れ落ちる。


「?? 苦手なのか、あの鬼っ子が?」


俺が彼らの手を取り立たせると、


あやかしの中ではトップクラスの力の持ち主だからねー。

 怒らせると手が付けられないよ」


「対抗出来るとすれば、天狗様くらいでしょうか……」


女性陣(一人男の娘)が大きく息を吐きながら語り、


「それもあるけどおそれ多いっぺ。

 人間でいうと、平社員が突然支店長や幹部クラスと会うようなものだべよ」


それは確かに精神衛生的に悪いだろうな―――

あまり顔を合わせないようにしていたのはそのせいか。


とにかく玄関での見送りを終えた俺たちは、居間へと戻る事にした。




「あーもう、絶対また来るよねぬし様……

 ミツが餌付えづけなんかしちゃってからにもう」


「こればかりはミツ様を恨みますぅ~……」


テーブルに突っ伏すようにして、倉ぼっこと野狐はブツブツと不満を漏らす。


「いや、しばらくは来ないと思うぞ」


「?? それはどうしてだっぺ?」


俺の答えに川童が聞き返す。


「俺の噂を聞いて顔を見に来た、って言ってたけどさ。

 それならもっと早い段階で来ていたと思う。


 引っ越してきた時とか、あと何回かトラブルもあったし―――

 それが今回来たって事は、


 野狐の仲間たちが俺の兄貴をどうこうしようと動くのを察知して、

 という……

 つまりそれくらいの理由が無ければ、動く事は無いんだろう」


その言葉に、人外3人組がうんうんとうなずく。


「だからまあ、野狐。あのクソ兄貴の事は放置でいい。

 また主様に介入されるのも嫌だろ?」


「そ、そうですね……わかりました。

 長老たちにはそう伝えておきます」


オカッパ頭の少女、に見える少年は頭を下げる。


「そういう事もあって、あれだけ大量のお土産を持たせたんだよ。

 こちらまで来る機会は少ないだろうと思ってな」


「おー、そういう意味もあったんだー」


「な、なるほど―――さすがはミツ様です!」


倉ぼっこと野狐は感心しながら返す。


「どこかお供えする場所があって……

 そこに届ける事が出来れば一番いいんだけど。


 それなら、少なくともここまで来る事はないだろう」


そして俺は3人の顔を見回すが、


「住んでいる山は知っているけど―――」


「お供えする場所とかは聞いた事無いっぺなぁ。

 オラもこの辺りに暮らして長いだべが」


髪を肩まで伸ばした少女と、褐色肌の少年は考え込む。


「じゃあ、今回の件を伝えると同時に長老に聞いてみます」


「そっか。じゃあ頼むぞ、野狐」


こうしてようやく人外3人組は一息つき……

緊張から解放されたからか、口々に軽食を要求し始めた。


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