第44話・命名


「鬼の方もいらっしゃったのですか」


週末にやって来た裕子さんに、俺は一連の出来事を共有していた。


「アタシたちの仲間が動こうとした事で、却ってご迷惑をおかけしてしまった

 みたいで……」


野狐やこが彼女に頭を下げ、


「まあ、ミツの希望を受け入れて―――すぐ帰ってくれたけど」


「オラたちも緊張したっぺよ」


倉ぼっこ、川童かわこも続いて語る。


「はぁ……それにしても満浩みつひろさんの身内ではありますが、

 直接的にも間接的にも迷惑をかけてきますのね。


 それで、お供えの件はどうなりましたの?

 野狐ちゃん」


「あ、はい。決まった社とか場所とかはありませんが、開けた場所の

 岩の上とか、大木の根本とかに置けばいいのでは―――

 と、長老から聞きました」


そんな感じでいいのか。

じゃあ、誰かにお供え物を持っていってもらうとして……

そう俺が思っていると、


「そういえば野狐ちゃんって、野狐の群れの一員なんですよね?」


「え? は、はい。アタシはそうですけど」


武田さんの問いに彼女はきょとんとして答える。


「どうかしたのか、裕子さん」


「あ、いえ……

 ただ倉ぼっこちゃんや川童さんと違って、野狐ちゃんだけ群れの

 一人として来ているから、ちょっと呼び方が何ていうか」


彼女の言葉に俺は『あー』とうなずく。

確かにこっちの2人は単体だからそのままの呼び名でもいい。


だけど野狐だけは群れの中の一人、そして全員が野狐というあやかしだ。

つまり彼女(男の娘だけど)を単体で呼んでいるのか、それとも野狐という

種族全体を呼んでいるのかで迷う時があるのだ。


「野狐に名前って無いのか?」


「全員、匂いや気配で識別出来ますから―――

 わざわざ名前で呼ぶ事もありませんね」


それはそうかも知れない。本来、名前とは個別のものであり他者との

違いを認識するもので……

それ以外で識別出来るのなら、必要無いのだろう。


「でも、それはそれで不便ですよ」


「野狐だけでも名前があった方がいいか」


俺と裕子さんが2人でそう提案すると、


「えー!? それなら僕もー!!」


「オラも欲しいだっぺよぉ!」


と、他の人外2人も自分の名前を要求してきた。


「わかったわかった。でもどんな名前がいいんだ?」


取り敢えず本人たちの希望を聞こうとしてみるが、


「あ、アタシはやっぱり女の子っぽい名前で―――

 エレオノーラ、とか……」


「僕はえーと、クラウディアかなー」


「オラはカッコよく、ギルガメッシュと呼んでくれっぺ!」


どこで得た知識かわからないが、まるでゲームかアニメキャラの名前を

欲しがるような感覚で各々の名前を口にする。


「ンなもん却下だバカ」


俺が冷静に返すと3人組は不満のようで、


「えっ、ど、どうしてですか?」


「どんな名前がいいかって聞いたのミツじゃん!」


「せっかく南蛮なんばんふうの名を名乗れると思ったのにどうしてだべ!」


俺がどう説得したものか悩んでいると裕子さんが、


「あのー……あまり長い名前は呼ばれにくいですよ?

 それに時が経てば愛称で呼ばれる方が多くなりますから。


 そのうちエッちゃんとかクーちゃんとか、ギル君って呼び方に

 変わるだけだと思いますので」


彼女が小さな子供を諭すように話すと、倉ぼっこも野狐も川童もがっくりと

肩を落とし―――


「とにかく名前はよく考えて付けよう。せっかくPCという便利な箱が

 あるんだし」


そこで俺たちはネット上でいろいろな名前や命名サイトをハシゴし、

当人の希望を最優先させ、


倉ぼっこ→『理奈りな

川童→『ぎん

野狐→『詩音しおん


と、一応だが暫定的に決めた。

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