第308話・決着01


「終わりましたか。

 敵味方双方にこれといったケガ人も無し……と。


 はい、こちらも終わりました。

 『雲外鏡うんがいきょう』さん、打ち合わせ通りそちらの部隊が

 持っていたトランシーバーをこちらにください。

 はい、一台だけでいいので誰か野狐やこに持たせて―――


 それじゃ、失礼します」


我が家には今時珍しい有線電話があり、それで向こうとの情報を

共有させていた。


ネットは地元のケーブルTVと契約した際、セットでくっついて

来ていて、回線はかなりしっかりしたものである。


「あちらはどうでした? 満浩みつひろさん」


「ミツー、どんな感じだったの?」


裕子さんと理奈が続けて聞いて来るので、


「取り敢えずみんなに説明するよ。

 捕まえた『月』部隊の人にも聞いてもらおう」


そこで俺は、みんなを待たせている広間へと向かった。




「『影』部隊も返り討ちにあったのか」


俺の説明に、『月』部隊のリーダーが大きくため息をつく。


何でも雲外鏡さんは野狐の報告を受けてすぐ動き始め、


まず煙羅煙羅えんらえんらさんが敵部隊と接触、気を引いた後、

その後、烏天狗からすてんぐさんに上空から強風を吹かせ、注意を上にそらす。


その間に『唐傘からかさお化け』の時雨しぐれさんが近付いて

局地的豪雨を彼らに浴びせ、


さらに『影』部隊をき回すために猫又ねこまた麻夜マヤさんが出動、

混乱させている間に時雨さんの降らせた雨を利用して、雪女さんが彼らの

足元を凍結させ、


最後に『飛縁魔ひのえんま』さんが登場―――

『影』部隊に投降するかこのまま燃やされるか迫ったのだという。


「あっちもやるなあ。

 こっちもこっちで、いろいろ考えてはいたが」


「確か敷地内に入った時点で、倉ぼっこの理奈さんに各種機器の

 主導権を奪ってもらって、混乱させたスキに銀様に一緒に

 突入して……」


弥月兄妹がうなずきながら話し、


「その上で舞桜まおさんに予め妖力ようりょく封じの腕輪をしてもらって、相手に

 反転の冥石めいせきを使わせるこちらの作戦もエグいと思っていましたが」


「あっちはその遥か上を行ったねー」


裕子さんと理奈がしみじみと感想を語る。


「まさか鬼に妖力封じの腕輪を使うとは」


「子供の姿のままでも強かったのであろうが―――

 そんなリスクをよく承知したな?」


『月』部隊のメンバーは拘束こそされていないものの、

観念しているのか大人しくしたまま疑問を口にする。


するとそれを聞いていた舞桜さんが、


「のう、琉絆空るきあ様。この格好だと落ち着かないので着けてくれぬか?」


「ん? ああ」


彼はそう言うと、妖力封じの腕輪をまるで恋人にでもつけるように

(実際そうなのだが)彼女の腕にはめる。


すると舞桜さんは十才ほどの少女の姿となり―――


「な!?」


「い、いったい何を」


十六夜いざよい一族の人たちがその光景に驚くと、


「だってアタイは琉絆空様を心の底から信じておるからのう。

 リスクなど知った事ではない」


そう言って、彼の腕に抱き着き、


「わ、私だって銀様の事を信じてましたからっ」


加奈さんが同じように銀の腕に抱き着き、こっちはこっちで無言で

裕子さんと理奈が俺の両腕にしがみつく。


「やれやれ」


「俺たちは馬に蹴られに来ただけって事か」


そう言って『月』部隊の人たちは苦笑した。


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