第265話・亮一視点05


「ふんふん、うんうん。

 何ていうかこう、運の悪さだけじゃ片付けられらない何かがあるよね、

 お兄さんは」


「ガキにわかってもらっても嬉しくねーよ……

 しかし、ずいぶんときもがすわってんなぁ。

 近頃の子供ってみんなこうなのか?」


それから、居酒屋っぽいところに連れて行かれた俺は―――

いつの間にか、その山本さんもととかいう妙な名前の子供にいろいろと

しゃべっていた。


最初は、どこぞの金持ちのお坊っちゃんの道楽どうらくかとも思ったが、

教育レベルがよほど高いのか、話術がすごく話している間に引き込まれる。

水商売の女だってこうはならないだろう、というくらいの接待っぷりだ。


まるで何十年……いや何百年も生きているような。


「あはは、そんなわけないじゃんお兄さん」


笑いながら話す少年に俺はぎょっとなる。

まさか心が読めるのか?


「そんな事出来るわけないよー。

 お兄さん、声に出てたよ?」


「あ? そ、そうか?

 それなら―――いい、のかな?」


何かかみ合わない気がするが、笑っているのだから別に気にする事でも

無い……んだろうな。


「そういえばお兄さんの弟さん?

 その人って何してるの?」


ん? 弟―――満浩みつひろの事か?

そんな事まで話したっけ?


「あの薄情者は、家族にも内緒で引っ越して行ったよ。

 今は東北の、母方の祖父が住んでいた家にいるはずだ。


 まあリモート? ってヤツ?

 それで仕事はしているみたいだけどよ」


そう言うと少年は席を立ち、


「ありがとうお兄さん。なかなか興味深いお話が聞けました。

 じゃあ、僕はこれで」


「お、おう。そうか」


と、彼が席を離れると同時に不安になる。


確か化け猫みたいなヤツに騙された時って、ホテルで泊まっているつもりが

実はどこぞの公園で……

さらにもらったお金も魚のホネになっちまってやがったし。


「大丈夫だよー。

 ここは大手のチェーン店だし、お金も本物だから!」


「あ、ああ。ありがとう?」


俺が生返事をすると、少年はふらりと店を出ていった。


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