第266話・山本視点01


「いやーでも、面白そうな人だなあ」


僕、山本五郎左衛門さんもと・ごろうざえもんは―――

軽い足取りで日が暮れたばかりの街を歩く。


今の見た目は人間でいう11,2才くらいか。

外見上、子供になっておくといろいろと対応が甘くなるから、

この姿は重宝している。


時々言葉は交えていたけど、あの男の記憶から情報はほぼ抜き出した。


あまりやり過ぎると、知能が下がるかも知れないやり方だけど……

もともと頭より武力に頼っていそうな感じなので別にいいだろう。


満浩みつひろ、ねえ」


あの男の弟だけど、どうも情報から推測する限り―――

その人を中心に何か起きている、という感じ。


あいつは弥月みつき一族にも絡まれた事があるらしいけど、

絡んだ方はその満浩を知っていたみたいだった。


敵対ではなく調査対象というイメージで、ただ兄であるあの男の話からするに、

温厚で自分から騒ぎを起こすようなタイプではなく……

ただ降りかかる火の粉は仕方なく払うという印象。


兄とは真逆と言っても差し支えない。


「どちらにしろ、あれだけあやかしの匂いをさせていた人物の弟―――


 会ってみる価値はあるだろうなあ。

 ふふ、楽しみだ」


「ちょっと君」


と、そこで呼び止められる。

振り返るとそこには警官の姿が……


「君1人か?

 こんなところで何をしているのかな?


 ご両親か誰かと一緒?」


まずい、ちょっと浮かれ過ぎていたか。

繁華街で、しかもすでに日暮れ過ぎ―――

そこを普通に歩く子供ってどこからどう見てもそりゃ怪しいか。


「あ、いえ。知り合いと来ていまして。

 ホラ、そこ」


「んっ?」


僕の言葉にその警官が指さす先を見るが、


「どこだい?

 ……って、え? え?」


再び僕の方を見た彼は、目を丸くして驚く。


「あれ、人違いかなあ。

 ところで何か用でしょうか?」


警官と同じくらいの背丈せたけにまでなった我を見て、彼はキョロキョロと

周囲を見回し、


「あの、そこにいた子供は……」


「え? 僕を呼び止めたんですよね?

 そんなに子供っぽいですかね、僕」


まあ警官にしてみれば、いきなり子供が成長して18才くらいに

なったとしか思えない状況だし混乱はするだろう。

服も顔も同一人物のそれだし―――


「あ、いや結構です。

 呼び止めてすいませんでした」


「そうですか? それじゃ、失礼します」


そして警官から離れ、駅の雑踏の中に入ると同時に我は子供の姿へと戻った。

まいったな、いくら幼い方が警戒をもたれにくいとはいえ、TPOをわきまえる

べきだったか。


我は反省しながら、電車に乗り込んでいった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る