第267話・東京に戻って


「はあ、一度全員で顔合わせを?

 別にいいとは思いますが―――」


スマホの向こうの通話相手は雲外鏡うんがいきょうさんで、それが終わると

裕子と理奈が顔を近付けてくる。


「誰からだったんですか?」


「知り合いー?」


ここは東京の、裕子さんの自室マンション。

今週は俺が上京するスケジュールであり、彼女の自宅に理奈と一緒に

宿泊していたのだが、


「雲外鏡さんからだよ。


 一度、今回知り合った人たちと親睦しんぼくを深めるために、みんなで集まって

 食事でも、って」


確かに、俺や彼女たちを含め向こうと直接面識の無い人も多い。

なので顔合わせとして、一度会っておく必要はあるだろう。


「そうですか」


「まー確かに、僕たちが会った人って『一つ目小僧』の人見ひとみ君だけだっけ?

 他の妖怪たちにも会っておくのはアリかもねー」


飲み物を口にしながら、恋人たちが感想を語る。


「しかし、週末は裕子さんや理奈がいなくなるとはいえ、

 ここに4人で暮らしていた詩音たちはすごいな……」


ここは武田さんが一人暮らしをするために購入されたマンションだ。

間取りはそれなりにあり、1人や2人なら狭いという事は無いが、

3人で生活する居住空間としてはやや手狭てぜまとなる。


それが4人ともなれば、たとえ週末だけとはいえ―――

結構な狭さだったのではないだろうか。


「さすがに今は、下の階に別の部屋を借りてもらったけど」


「荷物運び手伝ったけど、大変だったー」


2人の言葉に俺は首を傾げ、


「ん? でも詩音1人の荷物ってそれほど多くは無かったんじゃ?」


すると裕子と理奈は片手を水平に立てて横に振り、


「いえ、あの女子高生3人組の荷物がね?」


「家に持ち帰る事の出来ない衣装というか下着というかアイテムというか。

 そらもうエグい量で」


何しているんだあの4人は、本当に。


「そういや、話を元に戻すけど……

 雲外鏡さんたちとの会合というか食事会?

 あれ、旅館『源一げんいち』でやるのはどうかな。


 『一つ目小僧』も『猫又ねこまた』も『唐傘からかさお化け』も、

 今は全員あっちだしさ。銀もいるし」


「それはいいかも知れませんね」


「向こうに帰るタイミングでやれば、スケジュールとかも合わせられるしー」


そう返してくる2人から―――主に体から目をそらし、


「それで2人とも、頼むから下着以外の服を身に着けてもらえないか。

 目のやり場に困る……」


「え? だってどうせすぐ脱ぎますし」


「あー、それってコスプレでしたいって事?

 じゃあ詩音ちゃんがいくつか置いていったヤツで―――」


「違うから!!」


すっかりラブホ兼になったマンションの一室で、俺は頭を抱えた。


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