第72話・弥月加奈視点02


私の名前は弥月みつき加奈かな


普段はとあるアプリゲームの開発会社に勤めているグラフィッカー。

しかし裏の顔は、物の怪もののけあやかしどもを狩る事を生業なりわいとしてきた

一族の末裔まつえいです。


最近、私の尊敬する職場の上司が『人外探知機』に反応してしまい―――

その原因は安武やすべさんという、武田部長がサブリーダーに抜擢した

中年男性とにらんでおり、狙いや目的をどう探るか考えていました。


でもそれは一族の使命の一環。

街中でも、人外に対するパトロールや警戒をおこたってはおりません。


彼らが好むのは闇……

だから私は夜の街をよく一人で散策します。


人通りの少ない場所ではなく、むしろ多い場所を歩きます。

都会にはさびれた場所なんてほとんどありませんし、人をたぶらかす妖はむしろ

大勢がいるところを狙うのですから。


そしてだまされたであろう獲物バカを発見。


『人外探知機』に引っかかった『彼女』に連れられ―――

彼はふらふらと、公園に引っ張られていきました。


途中、手を上げたり下げたりした時がありましたが、多分タクシーか何かを

使っているつもりだったのでしょう。

実際はタクシーどころか、野宿のために公園に連れて来られたんですけど。


そこで一人裸で盛り上がる男は、滑稽こっけいを通り越して哀れでもありました。


好みであったら、実際に相手をする人外もいないわけではないのですが……

まあ、好みでは無かったんでしょうね。


そして一通り終えると『彼女』は男に魚の骨を渡し、そこで別れる

つもりだったのでしょう。


放置しても良かったのですが、見てしまった以上それは出来ません。

不本意ではありますがそのいかにもチンピラ風の男を助けるため、

私は『彼女』の術を破りました。


正体は何の事はない、ただの猫又ねこまたで―――

それもただの小銭稼ぎの小悪党こあくとう


聞けば人を食べるよりもお金をもらって外食をした方が効率が

いいという事で、まあそういう人外も近頃は多いです。


基本、我が一族はどんな妖も討伐しますが、私は無害そうなのは見逃します。

それにどう考えてもこの男、女の敵っぽかったので。


妖どもを相手にしていると、どうしても『そういう』ものが人間相手でも

見えてくるようになってしまうのです。

人にどれだけ恨みを買っているのか、憎まれているのか……


だから今回はおあいこにしました。

助けはするけど猫又は見逃します。

それが今回の私の判断です。


「くっそ、じゃあタクシーもホテルも何もかも、本当は使って

 いなかったのか」


「まあそういう事ですね。

 化かされた、という事です。


 これにりたら、もう知らない人の誘いには乗らない事ですね」


ようやく服を着て落ち着いたチンピラ風の男に、私は別れを

告げようとすると、


「ったく……なあ、この事は誰にも言わねぇからよ。

 少し金都合してくれねぇか?」


「はい?」


男の斜め上の要求に、私の思考は一時放棄される。


「いや、だってよぉ。

 アンタだってこういう『仕事』―――

 人に見られるのはマズいんだろ?


 いわゆる口止め料って事で」


彼はニヤニヤと片手の手の平を上にして差し出してくるが、


「……助けてあげたお礼がそれですか?


 それに言うって誰に言うんですか?

 警察ですか? 知り合いですか?

 化け猫に化かされ、何者かに助けられたと?


 良くてお酒でも飲んでいたか、最悪お薬でもやっていたのかと

 疑われるのが関の山でしょうね」


私がそう言うと、彼はバツが悪そうに視線をそらす。


「い、いや……すまなかった」


「もういいですよ。

 妖どもを相手にしていた方が、マシな人間もいるんですねえ」


私は呆れ果て、その場を後にしようとするも、


「え、ええと―――助けてくれてありがとうよ?

 俺は安武やすべってモンだけど……アンタの名前は?」


「あなたに名乗る名前など……


 ……今、何て言いました?」


聞き覚えのある名前が出た事で、私は帰りかけた足を止めた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る