第103話・現実的なハードル


「ただいまー」


主様との相談後、土日を経て―――

俺は日曜深夜に彼女である裕子さんの家に行って一泊し、翌朝

会社へ出勤。


月曜日はまた彼女の家に泊まり、火曜日の早朝に新幹線に乗って、

昼過ぎにここ自宅へと到着した。


「おー、ミツ。お帰りー」


「疲れていないだべか?」


倉ぼっこである理奈と川童かわこの銀、人外二人が俺を出迎え、


「ん? 詩音はいないのか?」


野狐やこの彼女(男の娘)がいない事に気付いてたずねると、


「しーちゃんはパトロール中ー」


弥月みつきさんの兄とはいえ、あっさりと侵入を許してしまったから、

 群れと一緒に警戒強化にあたっているようだべよ」


さすがにあんな実力の人がそうそういるとは思えないけど……

まあ用心するのに越した事は無い。


「でも何だかなー。

 東京って一度行ってみたかったんだけど、ぬし様の留守番役になるなんて」


「そこは野狐たちに頑張ってもらうしかないべよ。

 確かに今のところ、主様の代わりが務まりそうなのはオラたちしか

 いないっぺ」


主様との相談後、情報共有はしており―――

彼らは彼らでその事情に納得していた。


「でもまあ、それが解決したところで好き勝手に出かけられるわけじゃ

 ないってのがなあ」


俺の言葉に二人は首を傾げ、


「えー? 何で?」


「まだ何か問題があったっぺか?」


俺は荷物を置くと上着を脱ぎながら、


「どちらかと言うと人間側の問題だ。


 このご時世、身分証も何も持ってないんじゃ……

 下手したら職質でしょっぴかれるぞ」


そう、いざという時彼らには身分を証明するものが何も無い。

弥月みつきさん兄妹は人間だから、彼らがいれば銀や鬼っ子は

何とかなるだろうけど―――

フリーである理奈や詩音はそうもいかないのだ。


「うえぇ~、人間社会って面倒くさい」


「でもまあそれが、人間と付き合うという事でもあるべ」


女子高生くらいの女の子と褐色肌の青年、人外2人が微妙な顔になり、

俺はテーブルに乗っていた飲み物に口をつけた。


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