第104話・弥月琉絆空視点04


都内の寂れた場所にある、五階建ての古びたビル。

そこに一人の男が訪れていた。


彼の名前は弥月みつき琉絆空るきあ


ビルの外見には似つかわしくない、最新鋭の研究施設のような部屋で、

アラフィフの眼鏡をかけた、会社員らしき男と対峙する。


「君か。最近、ここへ来る事が多いな。

 ……また加奈かなちゃん絡みじゃないだろうね」


チクリと嫌味を言われる。

確かに以前、それ絡みで迷惑をかけた事はあったけど―――


「今回はきちんとした『仕事』だ。


 戸籍を4人分『作って』欲しい」


ここは弥月一族のバックアップ機関。

そういうのもお手の物で、たいていの身分証であれば偽造してくれる。


何せあやかしの中には人間社会に溶け込み、人間以上に裏を利用している

ヤツもいる。

それに対抗するためにも、こういう『仕事』は必要なのだ。


自分が差し出した紙を受け取り、初老の男はその内容に目を通し、


「1人は二十代くらいの青年……

 もう1人は十代後半。


 あとは十歳くらいの少女と高校生くらいの女の子か。


 『川童かわこ』と『野狐やこ』、

 『鬼』と『倉ぼっこ』―――なるほど」


「何か疑問はあるかな?」


その問いに彼は眼鏡の位置を直し、


「怖いが一応聞いておこう。『協力者』かね?」


「そうだ。俺と加奈、そして知人のな。

 ほら、妹がこの前、上司である女性をこちら側に引き入れたと

 言っていただろう」


そこで初老の男性は姿勢を崩し、


「ああ、それ絡みだったか。『使える』と判断したのだな。


 なるほど、なるほど」


「それで、どのくらいかかる?」


すると彼は一台のPCがある机に座り、


「そんなにかからん。今すぐ欲しいのなら後1時間ほど待っていてくれ」


「わかった」


自分はそのへんにあったイスに腰かけ、時間潰しのためにスマホを取り出し、

適当に画面をタップしていると、


「何かリクエストはあるかな?

 出身地や名前など……」


「適当でいい。どうせ『仮』だしな」


カタカタ、とキーボードの無機質な音が返ってくる。


「一番いいのは身近にいる人間の遠縁にする事だが。

 この安武やすべという男の親戚という事で構わんか?」


「ああ、それでお願いする」


ピッ、ピーッ、と今度は電子音が聞こえ、


「それで、この鬼っ子か倉ぼっこ……

 どっちがお前さんの本命かな?」


不意に図星を突かれ、スマホが回転しながら宙を舞う。


「なな、何を言って―――」


「お前も加奈ちゃんも子供の頃からワシゃ知っておるんだぞ?

 隠し事があると小指がプルプル震えるクセ、治っておらんのう」


即座に自分は土下座するような勢いで頭を下げ、


「すまん! この事、両親には……!」


「言わんわい。

 家庭の問題や色恋まで首突っ込むほど、ヒマじゃないのでな」


そして彼の言葉通り1時間後、自分は人外たちの戸籍を手に入れたの

だった。


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