第161話・ドラッグ02


「ご用件は何でしょうか?」


警視庁本部、その中の一室にとある男女が通され―――

そこへ招いた意図を問いただす。


1人はまるで武人のような風格のアラフィフに見える男性。

だがもう1人の女性はというと……


まるで10代前半にしか見えない少女が、隣りにいる男性と同じくらいの

年齢の妻だとは、誰が想像し得るだろうか。


「い、いやしかし―――

 その外見で、しかも2人の成人した子供がいるとはとても」


「あら、女性に年齢の事を聞くのはマナー違反ですわよ?」


口元を抑えてコロコロと鈴を鳴らすように笑う彼女は……

その巫女のような衣装も相まって、とてもこの世の者とは思えず、


「本題に入って頂きたい。

 刑事部長が私ども弥月みつき一族を呼ぶとはいったい?」


弥月一族は、あやかしを狩る事を使命とする血族である。

それはリアリティ至上主義の警察とは対極的な位置にいる組織だ。


本職は民俗学の教授だが、そのいかつい風貌ふうぼうに刑事部長は押され、


「秘密裏にだが、特別第六課を設立する事が正式に認証された。


 弥月さん、その一族の方々には―――

 ぜひとも任命を受けて頂きたく」


刑事部には捜査第一課から五課までしか存在しない。

つまり課を新設するから、そこに収まって欲しいという事だ。


すると少女のような妻がまたコロコロと笑い、


「あらあら、まあまあ♪


 これまでの弥月一族ウチとそちらの関係を……

 わかった上で言ってらっしゃるのかしら?」


「そ、それは」


部長は思わず黙り込む。


彼は大規模な事件や妙な犯罪の解決の影に、弥月一族の存在を

感じた事はあった。


だがそれは協力関係などではなく―――

怪しげな何者かが事件を引っ掻き回しているというイメージ。


妖やこの世ならざるものの存在を国家機関が認めていない以上、

それは仕方の無い事でもあったのだが……


「妻の言う通りですな。


 それに、国が絡んだ事がろくな事になった試しはない」


夫の言い分に彼はため息をつき、


「……わかりました。


 では、特別第六課への協力を依頼する事は可能でしょうか?

 可能な限り、こちらの情報もお渡ししますので」


最初から断られるのは想定済みだったのだろう。

彼は用意していた次善策を申し出る。


「それが賢明ですわね。

 ただ、対応する人材はお間違い無いように」


「協力する以上は、それなりに精通した人間をお願いします」


「はい……!」


短い会談が終わった後、弥月夫妻は警視庁本部を後にした。


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