第160話・ドラッグ01


安武やすべ亮一りょういち39才……

 繁華街でドラッグ摂取による一時的な精神錯乱、か。


 そういや新宿でも似たような事件が起きていたな?」


警視庁・本庁で捜査第一課の刑事が、ある書類に目を通しながら語る。


卯月うづき瑠奈るな速瀬はやせ水樹みずきもみじ一花いちかの女子高生3人組が

秋葉原で不審な男に絡まれたが―――

その人物こそが満浩みつひろの兄である亮一であり、


彼女たちを助けた詩音もその時は、3人を助ける事に意識が集中していて、

彼が満浩の身内である事に気付かず、


さらに亮一が狼男のように変身した事で、その正体さえ意識から飛んでいた。


「取り調べは?」


女性職員がお茶を持って来てテーブルの上に置く。


「ドラッグの入手先は知らねぇんだとさ。


 ただ、知り合いの道場から渡してくれと言う男からもらっただけで、

 その道場もそんなもの渡せと言った覚えは無いと言っているし」


「一時的に人が変わったように狂暴になる―――でしたっけ?」


アラフォーの刑事はタバコに火をつけて、


「狂暴になるだけならいいんだが……

 まるでプロレスラーみてぇな強さで暴れまくる、とも聞いている。


 ったく、いろいろなドラッグが出て来やがるもんだよ。

 今のところ分析待ちだが」


そこへ上司らしき男が現れ、


「おう、その件だが別の課に引き継がれる事になった」


そう言って書類を取り上げる。


「?? 何スか? もしかして組織絡み?」


「それだと五課の担当になりますね」


捜査第五課とは組織犯罪対策部であり―――

つまりこれは組織的な、大掛かりな集団による犯罪。

そして銃器・薬物も取り扱っているのだが、


「……ああ、そうだな」


上司は書類を集めるだけ集めると、それを手に部屋のドアへと向かう。


「何かあのオッサンにしちゃ、歯切れが悪かったなぁ」


「組織犯罪でもドラッグでも、五課になるはずですけど……」


男女はただ、部屋を出て行く上司を見送った。



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