第162話・ドラッグ03


「あぁん? あの亮一アホが逮捕されたって……知るかよ。


 第一アイツ、昔っからカツアゲとか自転車ドロとかで警察の世話に

 なっているだろうが」


東北にある家に戻った俺は、面倒だが母親からの電話に対応していた。


「は? 誰がそんな事を言ったかって?


 アイツが自慢げに話していたぞ?

 『自転車ドロの1つもやった事無いくせによー』って。


 何で威張いばれるのかすげぇ不思議だったけど」


通話先で何か『それは~』『だから~』とゴニョゴニョ言う声が

聞こえてくるが、


「んで、それを俺に伝えて何がしたいんだ?


 は? 何とかしてくれ?

 どうやってだよ。


 残念ですが俺に国家権力に対抗するだけの力はございませんので。

 それに誰かさんと違って反社会的な人間でも無いしー。


 次くだらねぇ事でかけてきたら、この黒電話ごと契約解除するからな」


対応していたのは、今時珍しい昭和のダイヤル式電話だ。

受話器を置くとふぅ、と一息つく。


「ミツー、誰からだったの?」


「あー、お袋からだよ。あのバカ兄貴がクスリか何かやって

 逮捕されたんだと」


倉ぼっこ……理奈の問いに俺はため息混じりに答える。


「え? そ、そんな……

 あの人、まだ逮捕されていなかったの!?」


「お前も結構酷いな。

 まあアレ相手なら構わないけど」


黒髪ロングストレートの彼女と笑い合う。

今週は裕子さんがこちらに来るので、今は理奈と銀しかいない。

その銀も、日中は老舗旅館『源一げんいち』に出向いており、

今は二人きりだ。


「あ! そういえばしーちゃんも彼女出来たんだっけー。

 あーあ、これで独り身は僕だけかぁ」


しーちゃん=詩音はこの前女子高生3人組と『そういう』仲になったと、

裕子さんから聞かされた。

何でも彼女のマンションに保護した時に、『いろいろ』と済ませていた

そうで……


「理奈は会社に気になる人とかいないのか?」


「それゆっちーにも言われたんだけどさぁ、勤め先だと意外と接点が

 無いものなんだよー。


 あー、ゆっちーと同じくミツの女になるのはダメー?」


「いやそれはなあ」


どうも裕子さんとしては、彼女を共に恋仲にするのは容認出来るようで、

以前その理由を聞いた事があるのだが、


『何か放置出来ないっていうか、手元に置いておいた方が安心ですし。

 それに満浩みつひろさんなら2人でも平等に愛してくださるのでは』


どういう信頼かわからないが、なぜかそう言われ―――

それに手元に置く方が安心というのはわからなくも無いので、

ビシッと拒否出来ない自分がいた。


「ミツは僕の事嫌いなのー?」


「えーと、いや、そりゃあ……

 あ! 昼食の用意しよう昼食」


そう言って俺は直近の問題から逃げ―――

台所で支度をし始めた。


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