第90話・弥月琉絆空視点02


自分の名前は弥月みつき琉絆空るきあ


普段はどこにでもいるサラリーマン……

そして裏の顔は、あやかしを狩る一族の末裔まつえい


そんな俺は今、妹である加奈かなを追って―――

東北のとある地へ公共機関を継いで向かっていた。


「しかしまいったなあ。加奈の乗っている新幹線を逃してしまった。

 それで1時間遅れとは……


 地元のレンタカー業者もすっかり閉まっているようだし、

 アプリでタクシーの予約もつかまらない。

 本当に何も無いところだな、ここ」


何とか主要駅に到着したのだが、ここからさらに最寄りの駅まで

電車で向かわなければならない。

地方よろしくもう終電ギリギリ、そしてスマホの画面をいくら操作しても、

自分の望む結果は得られず―――


「仕方ない。

 目的地に着いたらどこかで一泊してから向かおうか。


 探せばビジネスホテルか、マンガ喫茶くらいあるだろう」


そして自分はほぼ無人の駅構内を、とぼとぼと歩き始めた。




「……地方めてたわ。マジ何もねぇのな」


妹が降りたであろう木造の駅から歩くこと10分―――

駅周辺という事でさすがに何らかの店舗やビルはあったものの、

そのほとんどが営業しておらず……

かろうじてコンビニで飲食物を買い込むのが精いっぱいだった。


ただ駅前には一応客待ちのタクシーが1台だけあったので、

最悪、そこまで戻ってどこかのホテルへ行ってもらおうと

決意する。


「お客さんお客さん。

 どこにお泊りになるのか、まだ決まってないんですか?」


すると、30代くらいの物腰の柔らかそうな女性が近付いて来た。


「あー、どこかありますか?」


「それなら、ここから少し離れておりますがウチへどうぞ!

 ……まあさびれたところなんで、安いのだけが取り柄ですが」


そこで自分は彼女へついていき、町を出て30分ほどのところにある

旅館へと案内された。




「いらっしゃいませ。

 すぐお風呂にも入れますがどうしましょうか?」


旅館の一室に通された自分は、女将さんの接待を受ける。


「いや、廃墟の風呂なんて入れないだろう。

 自分は寝泊まり出来ればそれでいいし」


「え? は、はははご冗談を―――」


自分は女将の言葉が終わらない内に動作を終える。

結果、彼女の顔の横を抜けて金属製の鍵が後ろの壁に突き刺さった。


同時に照明は消え、月明かりの中、無人となって久しいであろう

旅館の一室が浮かびあがる。


そして件の女将はというと、正体であろうイタチのような姿となって

あたふたしており、


「自分は今回プライベートで来たんだ、どうこうする気はねぇから安心しろ。


 ホレ、宿代だ」


自分はサイフの中から千円札を取り出すと、床に放る。

イタチはそれで理解したのか、口にくわえて逃げるように去っていった。


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