■4章 それぞれの恋愛事情

第91話・兄妹喧嘩・01


「おはようございます、満浩みつひろさん」


「おはよう……」


お互いに寝巻姿のまま、布団の中で伸びをする。


俺と裕子さんは一階の仕事部屋兼寝室で、銀と弥月さんは土蔵の二階、

そして理奈と詩音はここの二階、裕子さんに割り当てられた部屋の隣りの

広間で寝るのが通常になっていた。


「んっ?」


そこで玄関のチャイムがなり、お互いに顔を見合わせる。


老舗旅館『源一げんいち』との取引は基本土日にはやらないし……

誰か来るという連絡も受けていない。


もし不審者なら、野狐やこたちのネットワークに引っかかるはず―――

とにかく出ようと急いで着替え、早足で向かう。


ちなみに田舎よろしく鍵はかけておらず、そのままガラガラと扉を

開けると、


「はい、どちら様でしょうか?」


そこにいたのは中肉中背、短髪の……

二十代後半の青年で、


「あ、自分は弥月みつきと言います。こちらに妹が―――」


「ああ、弥月さんのお兄さんですか? はい、おりますけども」


と、そこまで言った時点で言葉が止まる。

確か弥月さん、あやかしを狩る一族と言っていたよな……!?


その彼女が今、川童かわこの銀と一緒にいると知られたら―――

それ以前、倉ぼっこの理奈、野狐の詩音と出会ったら?


これはまずいかも知れないと、善後策を考え脳をフル回転させていると、

目の前で彼が吹き飛んだ。


横から入って来た彼の妹である、加奈かなさんの飛び蹴りによって。


「ど、どうした加奈……ぐはぁっ!?」


「いや、お兄ちゃん心配で……ぐへぇっ!!」


「そ、そうかこれは愛情ひょうげ……ウボァ!?」


何事か言う彼に対し、弥月さんは無言で殴る蹴るの暴行を加えていく。


その光景に目を奪われていると、遅れて着替えた裕子さんも

やって来て―――


「ど、どういう事!? 何で弥月さんが人を襲っているの!?」


「いや、どうも彼、お兄さんらしくて」


「えっ? えぇっ?」


やがてうつ伏せに倒れた男性と、そのそばに立っているポニーテールの女性が、


「あ、お騒がせしましたー♪」


超笑顔で弥月さんが振り向いた。


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