第58話・最終試験・05


「やれやれ……そんな事があったのですか。

 またあのお兄さんが絡んでいる可能性は?」


「いや、アイツは今入院中だし―――そこまで手が回るとは思えない」


週末に戻ってきた裕子さんに、俺はこれまでのあらましを説明していた。

電話である程度は伝えていた。すでに鬼っ子が追い払った後なのである意味

解決済み、とも。


「建設会社の人たちなんですよね?

 それにしてはずいぶんと反社会的な態度と思いますが」


「つながりがあるのか、それとも会社自体が隠れみのなのか……

 まあまともじゃないのは確かだろうなあ」


ただ威勢いせいが良かったのは社長とかいうアラフィフの男だけで―――

下っ端連中は異常事態に右往左往うおうさおうしていた感じだった。


「またやって来ると思います?」


「そこが問題なんだよなあ。あれだけの目にあえば普通は引くけど……

 普通じゃない連中だし、あの社長が命令して下っ端だけ突撃してくる事も

 考えられる。


 軽トラで家に突っ込んで来られたら目もあてられん」


彼女に割り当てられた部屋で、俺と裕子さんは二人で悩む。


「そういえば……あの主様と3人が家にいなかったんですけど」


思い出したかのように問う彼女に、


「鬼っ子は山に帰った。おそらく山に連中が押しかけてくるのを警戒して

 だろうけど。


 3人はさっきも言った通り最終試験だ」


「ああ、確かその連中を怖がらせるっていう―――

 じゃあもう向かっているんでしょうか?」


「『詩音しおん』の仲間が脅しをかけたという話だから、場所くらいは

 知っているんじゃないかな?


 まあ、どこまで脅かせばいいのかわからないけど」


「『出来なかったらアタイが連中を一族郎党いちぞくろうとう根絶ねだやしにする』……

 って言ってたんですよね?


 つまり、死なない程度に、かつ償いをさせるのも入っているから

 逃げ出さないようにって事ですか?

 結構ハードルが高いような気がするんですけど」


裕子さんの説明を聞いて、俺も両腕を組む。


「確かになあ。

 でもまあ最悪、こっちに手を出すのを諦めさせればいいだけだから―――


 もし逃げられたら、俺の方から主様に執り成しておくか」


「その時は私も加わりますわ」


久しぶりにガランとした家の中、俺と裕子さんは話し合いを続けた。




「はぁ……ったく。あのおや―――社長も人使いが荒ぇや」


目白めじろ家……今は安武やすべ満浩みつひろの自宅兼仕事場となった

その家から少し離れた場所で、軽トラを背に一人の男がつぶやく。


島村建設の社員で、また最初に満浩にコンタクトした人物である。

彼は双眼鏡をのぞき込みながら、


「そういや、女が入っていったな。という事は彼女持ちかあのオッサン」


社員はスマホを取り出すと、そのまま社長につなぐ。


『女? そうか、よくやった。そういう『身内』がいるなら使える』


「と言いますと?」


『鈍いヤロウだな。その女をこっちで預かりゃいろいろと―――だろう?

 それにどうもあの男、30年前の事情についても知っていそうだ。


 バケモンと何か交渉する手段を知っているかも知れねぇしよ。

 最悪、びを入れるにしろそいつを盾にすりゃいい。


 よし、戻って来い。そしてその女を確保する手立てを考えるぞ』


それだけ言うと社長は通話を一方的に切り、社員はため息をつく。


「はー、もう……こっちでも手荒な事しなきゃならねえのか。

 仕方ねえ、戻るとするか」


社長の考えを理解した彼は車に乗り込み、エンジンをかける。

すると、いつの間にか助手席側の近くに何者かの気配を感じ、


「っ!? だ、誰……え?」


そこには、シルバーの長髪に着物姿の、十代後半くらいの女性が

微笑んでいて、


「すいません。ちょっとこちらでコスプレ撮影していたんですけど―――

 山の中ではぐれてしまって。


 どうか町まで乗せていって頂けないでしょうか」


ここ最近、奇妙な出来事が続いたためか彼は一応警戒するも、


「お願いします。ここだとスマホの電波も届きにくくて。


 それに、お兄さんアタシの好みだし……

 もし助けてくれたら、いいコトしてあげてもいいかも♪」


そうニッコリ微笑むと、男の方は頬が緩み、


「ちっ、しょうがねえなあ。じゃあ乗りな」


助手席の扉を開けると、『彼女』は乗り込み―――

同時に二つの影がトラックの荷台に飛び移った。


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