第57話・最終試験・04・『島村組』の調査02


島村建設が安武やすべと愉快な仲間たちに絡んだその夜―――

彼らはオフィスに入り状況を整理していた。


「おやぶ……しゃ、社長。

 俺たち、とんでもないモンに手ぇ出しちまったんじゃ……」


おどおどしながら、部下の1人が俺に声をかけてくる。


普段なら一喝いっかつしてブン殴っているところだが、俺自身もこの目で見た。


狐が何十匹も並んでこちらを見ていたのを。

いきなり俺の車のドアが目の前に落ちてきたのを。


狐の方はまだいい。騒いでいるから寄って来ただけ―――とも言える。

だが車のドアはおかしい。誰がどう考えても物理的におかしい。


帰りに修理業者に持ち込んだが、『まるで引き千切ちぎられたような』と言われ、

部下の1人があの山の開発に関わっていると口をすべらせた途端、

塩をぶっかけられた。


『今後一切ウチに関わるな!!』


本来なら退く事はねぇが、部下どもが全員腑抜ふぬけちまっている状態じゃ、

話にも何にもなりゃしねえ。


「……ケッ!」


やけにきもわったあの男の言葉が思い出される。


『悪い事は言わねぇからさっさと引き上げろ。

 今ならまだ間に合うかも知れねぇ』


―――あの山にいったい何があるってんだ?


だが、いくら二束三文にそくさんもんで買った土地といえど……それはあの山だけの話。

ここに拠点を構える費用だってバカにならなかったんだ。


ましてやオカルトみてぇな話を恐れて東京に逃げ帰ったとなりゃあ、

島村組のメンツが潰れる。

そうなりゃ、もう組としては死んだも同然だ。


「ただいま戻りやした!!」


報告と共にドアを開けて入って来たのは―――30年前のリゾート開発の件で

当時の関係者に話を聞きに行ったヤツだ。


「おう、待ってたぞ」


俺が姿勢を正すと同時に、部下たちもヤツに視線を集中させる。


「……ど、どうしたんですか?

 それに社長の車、ドアが壊れていましたけど。一体何が」


「それは後で話す。いいからお前が調べて来た事をしゃべれ」


「へ、へいっ!」


そして俺を含めて全員が、そいつの説明に耳を傾けた。




―――部下回想中―――


『金属疲労?』


『表向きは―――そうなっている。

 それ以外は記録に残せなかったんだろう……』


当時のリゾート開発の業者の関係者。30年前という事もあり、

すでに70歳を過ぎていたが―――


元『同業者』という事もあってか、会話はしっかりしていた。


『それ以外って言うと、どういう事でしょうか』


『何かに引き千切られたんだよ。


 重機も、車も、プレハブも……何もかもだ』


遠い目をしながらタバコを吹かす老人に、島村組の社員は困惑しながらも

話を続ける。


『何かって、何に、ですか』


『だから、ブルドーザーやショベルカーを引き千切るような事が

 出来るヤツだろう』


老人は頭をガシガシとかきながら、何かを振り払うように首を振る。


『おめぇさんもカタギじゃないようだが……それを調べてどうする?』


彼は元『同業者』として、島村組の社員の正体を見破りつつ、

その意図をたずねる。


『い、いやあ……それでどうなりました?』


『地元の老人から、あの山に酒を捧げた上で、二度と山に近付かないと誓えって

 言われたんだ。


 ケンカなら後にゃ引かねえけどよ。さすがに重機を簡単にぶっ壊すような

 相手なんざどうにもならねえ。


 それ以来―――山どころかあの県にゃ入ってもいねぇよ』


老人は肺にたまっていた煙を一気に吐き出すようにして、室内を曇らせる。


『悪い事は言わねぇ。おめぇさんもあの山に手を出すつもりなら、

 今のうちに考え直した方がいいぜ?


 こっちの事情やメンツなんざ、考えてくれる相手じゃないからな、ありゃ』


社員の方はどう答えたらいいか迷っていたが、意を決して話す。


『ええと、実は―――

 あの山の開発許可を申請して、実はもう手配している段階でして』


その言葉に老人は目をカッと見開き、


『それを先に言いやがれ!!

 そうだと知っていたなら、俺はお前と話す事なんかしなかった!!


 俺はもうあの山とは絶対に関わらん!!

 帰れ!! 二度とその面見せるな!!』


―――部下回想終了―――




「と、そういうワケで追い出されまして……

 怒鳴ってはいましたけど、尋常じんじょうじゃない怯え方をしていました。


 それで、ええと―――こちらでは何があったんで?」


ヤツの報告を聞き終わった端から、部下どものがザワザワし始める。


「しゃ、社長! もうこれダメですよ絶対!」


「ブルドーザーを引き千切るようなヤツなんて……

 勝つとか負けるとかいう相手じゃないです!!」


そこで俺は机に拳を振り下ろし、部下どもを黙らせる。


「あぁ!? だからビビッて逃げ出せっていうのか!?


 それに最悪、酒でもそなえりゃ許してもらえるんだろうが!

 何もしねぇで帰るようなら抜けやがれ!!」


何とか場を静めると、あの家を見つけて来たヤツに向かい、


「どちらにしろあの家は拠点として使える。オイ、お前あの家を見張りに行け。

 弱みでも握れりゃ見っけもんだ。


 他もボサッとしてねぇで動きやがれ!

 県内の協力が得られねぇのなら、最悪東京から引っ張って来い!!」


「「「へいっ!!」」」


そして全員が出払うと、俺はソファに身を投げて寝る事にした。


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