第56話・最終試験・03


「まーったく。せっかくあれだけ良い心地で酔ったというのに、最悪な目覚めを

 したのものだ」


ぷんぷん怒りながら、赤い肌の10才くらいの少女が正座する。

そして彼女の周りで理奈・銀・詩音の人外たちがなだめ―――


「落ち着いてくださいぬし様。クールダウン、クールダウン」


「都会の連中は、怖いという事がわかってないっぺよぉ」


「下手に暴れたら、ミツ様にも家にも被害が及ぶでしょうし……」


俺はというと、昼過ぎではあるが一応これが朝食となるので、お腹に優しい

おじやや汁物を器によそう。


「とにかく食べてから考えましょう。

 あれだけ脅かしたんですから、またすぐ行動には移さないでしょうし」


「むう……」


俺が昨日の残りで適当に作った汁物を渡すと、鬼っ子はそれを口につけた。




「……それで、最終テストっていうのは、要は連中を怖がらせればいいって

 事ですか?」


食事が終わって一段落した後、俺は鬼っ子に話を振る。


「まあ、そうだ。

 出来れば二度とこちらに手を出したくないと思えるほど、震え上がらせて

 やればよい」


主様はお茶を飲んだ後、ほぅ、と一息入れる。


「つまりそれは―――連中に『怪異』として認識させる、そしてトラウマを

 植え付けてやるほど脅かすという事で」


それを俺のそばで聞いていた人外3人組はふむふむとうなずく。

ていうか何で1対4の話し合いみたいになっているんだか。


「連中に償いはさせなくても大丈夫なのですか?」


理奈りな』=倉ぼっこがおずおずと片手を挙げてたずねると、


「あるならそれはもらうが、どうせ酒が関の山であろう。

 そこはお前たちが考えなくとも良い」


「そうだべか」


「アタシたちは、奴らを怖がらせる事だけに専念すればいいという事ですね?」


ぎん』=川童かわこ・『詩音しおん』=野狐やこの確認に、

彼女はうなずいて同意する。


「でもそれはもったいない気がするなあ……

 こうまで迷惑かけられたんだし、連中に何か支払わせてやりたい」


「とはいえのう。アタイまで姿を見せて交渉というのは―――

 この姿ではかえって舐められる可能性がある。


 そうなったらアタイの理性が保てるかどうか保障が出来ぬ……」


見た目だけなら単に肌の赤い、角のある可愛い少女だからなあ。

全員脅かした後ならいいが、事情を知らない第三者が混ざって―――

あかん、フラグしか見えない。


「では交渉は、ミツ様にやって頂いたらどうでしょうか」


そこで詩音が提案する。俺はそのまま鬼っ子の方に視線を移すと、


「ふぅむ。そこまで頼んでもいいものかのう?」


「俺だってすでに巻き込まれていますしね。夢に出て来たとか言えば」


そこで彼女は両腕を組んで天井を見上げた後、


「ならば任せよう。ミツ殿、恩に着るぞ」


そこで理奈も銀も詩音もホッとした表情を見せる。


「しかし、何をもって償いとさせるつもりだ?」


そこでまた、主様の会話先が俺へと向き、


「そうですねえ。連中、建設業とか言ってましたし……

 こういうのはどうでしょうか?」


そこで俺の意見に人外4名が耳を傾け―――




「ほお。そりゃ願ってもない話だが」


鬼っ子がまず同意し、


「僕はいいと思いますよ? それにそうしておけば、もう変な連中も

 寄り付かないでしょうし」


黒髪ロングストレートの高校生くらいの少女が主様に続く。


「悪い事して儲けていそうな感じだったべ。

 遠慮はいらないと思いますだよ、主様」


褐色肌の青年も俺の意見を推し、


「実際―――アタシたちの仲間が警告の意味で脅したにも関わらず、

 また絡んできたんです。


 むしろその程度の償いは必要でしょう」


最後にシルバーの長髪になった野狐も推進し……

補填の案がまとまった。


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