第55話・最終試験・02
「……ん? 何だ?」
俺は広間で目を覚ます。
修行がほぼ終わり、後は最終テストとやらを残すだけとなった人外3人組が
帰って来た深夜―――
確かそのまま宴会に突入して、みんなそこで寝てしまったんだっけ。
周囲を見ると
そして鬼っ子の
そういえば俺が布団を持って来て、先に寝入った彼らにかけて回ったんだっけか。
しかし、この騒々しい音は?
敷地に人が複数入って来ているようだけど。
俺は人外4人をそこに残すと、玄関の方へと足を向けた。
「結構広いなここ。大型トラックも4・5台は入るんじゃねーか?」
「資材も置けますね。それに家も広いし10人くらい寝泊まり出来るんじゃ」
見ると、軽トラックが数台、それにベンツが1台停まっており―――
スーツ姿のサラリーマンらしき人間が7・8人、何事か話している。
まさかまたクソ兄貴が宿泊場所として提供したんじゃないだろうな、
そう不審に思い彼らに近付き声をかける。
「どちら様ですか?」
俺の声に彼らは振り返ると、その中のアラフィフの男が笑顔で近付いて来て、
「あー、あんたここの住人かい? 悪い、ちょっと使わせてもらっているわ」
「無断でそんな事を言われても困ります。それに不法侵入ですよ?
早く車をどかしてください」
するとその男は俺の答えを右から左に流すように、
「あのねー、今後ここを使わせて欲しいんだよ。
ちょっとここら辺を開発する事になったからさあ」
「そうですか。でも迷惑なので出て行ってください」
すると彼はやれやれ、というように両手を広げながら、
「いや、お前の言う事なんて聞いてねーんだよこっちは。
それよりずいぶんと非協力的な態度だねえ?
素直に従っていりゃあ、少しは恵んであげてもいいと思ってんのに」
見ると、先日いきなり不法侵入してきたあの運転手の姿も見える。
仲間を引き連れて来てお礼参りか? とも思ったがとにかく冷静に
話を続け、
「お金なんていりませんよ。こっちは静かに暮らしていたいので」
「だーかーらーよーおー?
その静かな暮らしを壊されたくないだろって言ってんの」
そこで俺は大げさにため息をついて、
「まずどこの誰なんだ? 何がしたくてこんな事をしている?」
「あーすいませんねえ、名乗るのが遅れて。
『島村建設』って言いまーす。それで俺はそこの社長」
するとその男はそう言いながら書類を取り出し、
「あそこに山が見えるだろ。これがその開発許可。
そんでな、一応現場にもプレハブとか建てるつもりでいるけどよ、
それまでここを使わせて欲しいんだ。
……こっちが優しく言ってあげている間に、うなずいてくれると
嬉しいなあ」
合法的に許可は得ているらしいが―――ん?
あの山って確か主様の……!?
「あそこを開発するつもりなのか!?
どういう山かわかっているのか?」
俺が大声を出すと、社員らしき男たちが顔色を変えて振り向く。
どうやら事情を知っている者もいるみたいだが。
「あー、あんたのような田舎モンは怖いんだろうけどよぉ、
俺は都会の人間なんでね。迷信なんて屁でもねーの。
第一、あそこは30年前と50年前に2回手が入っているんだ。
前回は中止になったようだが、その前のは普通に行われている。
何、ここを使わせてもらうのは多分1ヶ月くれぇだよ。
ちょっとした小遣い稼ぎになると思ってご協力お願いしまーす」
「しゃ、しゃ、社長……!」
こちらを小ばかにするようにしゃべる社長に彼の部下の1人が近付き、
「あぁ? 何だよ」
「あ、あれを」
その指摘に俺も周囲を見渡す。すると―――
「き、狐……!」
「あれです! あの狐どもですよ、駐車場にいたのは!!」
向こうの社員とやらが騒ぎ出す。そこには野狐たちと思われる狐の群れが、
綺麗に一列に並んでこちらを見ていた。
この騒ぎを聞きつけて来たのか? と思っていると社長と言われた男が
部下の1人をぶん殴り、
「ビビってんじゃねぇよ! 狐がいたからなんだってんだ!?
こんなド田舎だ、狐くれぇいてもおかしくねぇだろ!!」
いや、田舎でも2・30匹の狐が並んでこちらを見つめている事なんて
そうそう無いと思うぞ。
「何ー? ミツ」
「騒がしいっぺが……」
「何この人たち?」
そこへ理奈、銀、詩音の人外3人組も姿を現し―――
「……チッ! おい、車は何台かここに置かせてもらうぜ。
ホレ、駐車代だ」
社長とやらが、サイフから万札を何枚かこちらに投げて寄越すが、
それはただ落ちて俺の足元で風に吹かれる。
そこで俺は大きく一息ついて、
「はぁ……そういえば思い出した。
30年前、あの山がリゾートか何かで開発されそうになった時―――
爺さんが言っていたよ。『バカな事を』ってな。
俺がまだガキの頃の話だが。
悪い事は言わねぇからさっさと引き上げろ。
今ならまだ間に合うかも知れねぇ」
「あぁ? お前もよぉ、口の利き方に気をつけろよ。
『今ならまだ間に合うかも知れねぇ』ぞ?」
暴力上等、という事はカタギではないのだろう。
しかし部下たちはすでに顔が青ざめているのに、コイツ1人だけが
空気が読めないのか?
どう考えても、人間の力や能力ではどうにも出来ない者を相手に
しようとしているんだが。
「まっ、お前がどう言おうが知ったこっちゃねぇな。
俺は金を払ったし、それに法律上他人の敷地だろうが、そこに停めてある
車は勝手に動かす事は出来ないしよ」
それに対し俺は何も答えない。それよりどうすれば鬼っ子が介入する前に
終わるか、コイツらは無事帰れるのかどうか頭を悩ませる。
そんな俺の考えに構わず、初老の男は俺の肩に手を置いて、
「タダで貸してくれるっていうんだ、有難い事だよなぁ?
恨むなら法律を恨んでくれよぉ?
お前が最初っから大人しく従ってくれりゃあ『バキッ!!』」
彼の言葉は後方から聞こえてきた物理的な破壊音で止まる。
「おい!! また何か壊しやがったのかぁ!?」
わざと怒鳴って周囲を
さっきの部下を殴りつけるのもそうだが……
そうやって『俺たちは危ない連中ですよ』アピールをしているのだろう。
しかし、さっきのは何の音だろうかと思っていると、
『ガコンッ!!』
一台の軽トラックの荷台に何かがぶつかり―――
それは大きく跳ね返って宙を舞い、
『ガシャン!!』
それは社長と言われる人間と俺のすぐ近くに落下してきた。
見ると自動車のドアのようだが……それが物理法則に従ってカラカラと
振動し、やがて動きを止める。
「あ―――」
見るとベンツの方には、とてもいい笑顔をした鬼っ子が立っており、
彼女を見た人外3人組の顔色が変わる。
多分主様がベンツのドアを引き千切り……それを空高く放り投げたのだろう。
あちゃー……と思って俺が片手で顔を覆うようにすると、
「きょ、今日のところは引いておくぜ。
あとこの家で作業員が寝泊まりする準備をしておけよ!!
わかったな!!」
社長もその現象にはさすがに危険を感じたのか、慌てて社員たちと共に
車に乗り込み、敷地内を後にした。
車のドアは軽トラの荷台に乗せて持ち帰ったようだ。
ようやく俺以外『無人』となった敷地内で、鬼っ子がとことこと
人外3人組に歩み寄り、
「……最終テストが決まったぞ。
あの連中の
出来なんだらアタイが連中を
「「「い、いぇっさー!!」」」
主様の命令に彼らは最敬礼で答え―――
彼らの最終テストと連中の運命は決まった。
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