第54話・最終試験・01


「……アレ? 今日は3人ともか? それにぬし様も」


ある日、いつものように深夜、人外3人組のローテーションで帰るヤツを

待っていたら―――

玄関先に『理奈りな』=倉ぼっこと『ぎん』=川童かわこ・『詩音しおん』=野狐やこ

3人に加え、彼らを修行させている鬼っ子が立っていた。


「そろそろ修行も最終段階に入ったのでのう。

 もうアタイの山に通う必要は無いという事じゃ」


「へぇ、意外と早かったですね。3人ともおめでとう」


俺がそう言うと、褐色肌の青年と着物姿のコスプレイヤーのような女性2人が

照れながら笑う。

(1人は男の娘だが)


そして俺は外見は10才くらいの、真っ赤な肌をした鬼っ子に向かい、


「主様もお疲れ様でした。


 じゃあお前ら、今夜はご馳走を作ってやるよ。

 主様も食べていかれるでしょう?」


「その言葉を待っておったのじゃ!

 今宵こよいは食うぞ! 飲むぞー!!」


そしてそのまま俺と人外4人組は、宴会に突入した。




「いやあ、やっぱり毎食誰かの手料理が食べられるのはいいっぺよ」


「久しぶりのミツの手料理……!」


「どれもこれも美味しく感じられますわ♪」


銀、理奈、それに詩音が俺の料理―――と言っても、ただ煮たり焼いたり

温めただけの簡易的な食事に舌鼓を打つ。


「3日に一度は食べに来ていたし、差し入れだって持たせていただろうが」


「まあそう言うなミツ殿。

 本来、自然であれば絶対に味わえない生活に慣れ親しんだのだ。

 少し離れるだけでも、そりゃあ苦痛であったろうよ」


彼らの指導役であった鬼っ子が人外の立場から擁護する。


「そういえばミツ、まだ新しい仕事は始まってないの?」


ふと理奈が俺の話題に変わり、


「いや、もう始まっているぞ? リモートでだけどな」


「ん? 週に一度は東京に行くんじゃなかったべか?」


銀がその言葉に聞き返してくる。


「だってお前らがそんな状態になっちまっただろ?

 それで裕子さんが、彼らの面倒を最優先にって言ってくれたんだ。


 あっちには身内が動けなくなったので、そのお世話をするため

 出社が少し遅れるって説明してくれたらしい」


「あ、アタシたちのためですか!?」


詩音がびっくりして声を上げる。


「まあ実際、ウチのクソ兄貴が今入院しているしな。

 身内が動けない状態ってのはウソじゃないし。


 俺もアイツがやっと役に立ってくれたかと思うと感慨かんがい深い」


人外4人はそれを聞いて、それぞれ苦笑を浮かべる。


「ハッハッハ!

 しかし、ミツ殿の奥方もなかなかの人物よのう。


 野狐どもも妖力ようりょくを取り戻しつつあるし……今後が楽しみだ」


高笑いする外見は10才くらいの少女に、俺はお酒を注いで、


「そういえば主様。修行が最終段階で山に通う必要は無いと

 言ってましたけど―――


 家の中で何か修行をさせるんですか?」


「最終テストをさせようと思っているのだがな。

 なかなか良い案が思い浮かばないのだ。


 現状、彼らはもう普通の人間の目には見えなくなっておる。

 そこまではクリア出来ておるのじゃ。

 だから後はアタイが最終テストを思いつくまで、日常生活に戻っても

 問題は無いと判断した」


なるほど……

要は妖力の制御とやらが出来なければ普通の人間の目に触れ、その存在が

バレる可能性があったが―――

今はその恐れも無くなったので、元の生活に戻る事を許可したのか。


確かにここは裕子さん以外にも、老舗旅館『源一げんいち』の職員や

配達の人が来る事もある。

それを考えれば、俺と共同生活の状態に戻っても差し支えないだろう。


「はぁあ~……やっと毎日お風呂に入ってベッドで眠れる生活に戻れるよ」


「蛇口をひねれば水が出るって、有難い事だったんだべ……」


「アタシはトイレがもうダメでした……

 アウトドアが好きな人間がいるって、信じられませんよぉ~」


理奈に銀、詩音が切実な声で語る。

一度文明生活に慣れたらそりゃなあ、と彼らに同情する。


「まあそう言うな。

 これでやっと修行から解放されるのだからな。


 さあ、酔いつぶれるまで飲むがいい!」


そして主様の号令の下、誰からともなくコップを掲げカンパイの音頭おんどが取られた。


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