第53話・『島村組』の調査01


「あぁ? 資材調達が出来ない? どういう事だ?」


安武やすべ満浩みつひろの家から車で数時間ほど離れた街、

そこのオフィスビルの一室―――


見かけは普通のスーツを着たサラリーマン風のアラフィフの男が、

部下らしき青年に問う。


「そ、それが……県内ではどこも断られちまって」


「オイ。最初から脅すとかこっちの本職をチラつかせるとか―――

 下手うってねぇだろうなあ?」


すごみを利かせて部下をさらに問い詰めると、


「と、とんでもありません!

 ていうかこのご時世ですし、最初は向こうも乗り気だったんですよ!


 それがあの山の名前を出した途端……

 急に顔色変えて、もう来ないでくれって」


そこへ他の社員らしき男たちも帰って来て、


「おう、お前らはどうだった?」


彼らは互いに目を見合わせた後、『社長』に向き直り、


「そ、それが……どこもダメでした。

 それどころか、今からでも遅くないから手を引いた方がいい、とまで」


「俺も似たようなモンです。

 『お前らが相手にしているのは、話が通じない存在だ』と―――


 しゃ、社長。これ本当にヤバい案件なんじゃないですかね」


それを聞いた初老の男は、『ケッ!』と悪態をついてソファに腰掛ける。


「あの山……何があるってんだぁ?」


『社長』はソファから足を投げ出し、天井を見つめる。

すると今度は電話が鳴りだし、


「チッ。スピーカーにしろ」


彼の命令にそそくさと部下の1人が言われた通りに動く。


『社長! あの、例の山に関しての調査ですが』


「おう、待ってたぜ? で?」


その会話に社員たちも耳に神経を集中させる。


『ええと、50年前と30年ほど前にも開発計画が持ち上がったらしいです。


 50年前は生活用水と環境整備のため、河川のコンクリート化事業を国が、

 30年前はそこの山の個人所有の部分を県外の業者が買い取り、リゾート

 開発しようとしたとの事です』


「じゃあ普通に工事出来るってワケじゃねぇか。

 何で地元の業者はビビりやがってんだ?」


イラつきと疑問半々な表情になりながら、彼は先を促す。


『それがその、50年前の河川整備は何も無かったようなのですが、

 リゾート開発は途中で頓挫とんざしたようです。


 何でも重機が転倒したり壊れたり、現場にプレハブを建てても片っ端から

 崩壊したそうで……

 死者こそ出なかったようですが、その時の業者はそれで撤退したと』


「何が原因だ?」


『……え?』


「おい、お前の肩に乗っかってんのは飾りか?

 何で重機が転倒したり、プレハブが壊れたのかって聞いてんだよ。


 まさか『そういう事件がありました、ハイお終い』ってんじゃ

 ないだろうなあ?」


段々と機嫌が悪くなっていく『社長』に周囲も震え上がり、


『そそ、その当時の業者も調べ上げてあります!

 た、ただ会社としてはすでに倒産しており、関係者に会いに行こうにも

 遠出しなければならないので―――

 それで社長に許可を取ろうと思っていたところです、ハイ!』


「じゃあとっとと行って事情を聞いて来い。

 俺は気が長い方じゃ無いって事、忘れんなよ」


そこで電話を介した会話は終わり、社長は社員たちの方へ振り向くと、


「てめぇらもボケッとしてんじゃねえ!!

 地元の業者がダメなら、とっとと県外なりヨソを当たるなりしやがれ!!


 そんぐれぇの事も言われなきゃ出来ねぇのか!」


彼の号令の下、部下たちは弾かれたように散り散りに出かけていく。


「おう、お前は残れ」


「は、はい?」


社長はあの、安武やすべ満浩みつひろの家まで行った軽トラの運転手の肩をつかみ、


「現場はともかく近くまで行ったんだろ?


 で、どこか使えそうな場所は無かったのか?

 資材置き場とか―――」


「そ、そういやあ一軒だけ二階建ての家がありましたが。

 敷地もかなり広かったので、あそこなら大型トラックを何台か停めても

 大丈夫かと」


「おう、そりゃいいな! そこを拠点として使わせてもらおう。

 どうせ住んでるのは一般人か年寄りどもだろ?


 いくらか出せば協力してもらえるだろうし……

 まあ、反対するなら黙らせりゃいいだけだ。


 ようやく先行きが見えて来たぜ」


喜ぶ社長を前に、そこの家主に逆におどかされて戻って来た、とは言えず……

彼は視線を横に流した。

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