第52話・情報共有・武田視点05


「ははあ、そんな事があったんですか」


「ええ。長老始めアタシの仲間が一応おどしておいたみたいですけど」


翌日―――

ちょうど『詩音しおん』さん=野狐やこが帰って来た日、私が週末帰る日と重なり、

そこで先日あった出来事について情報共有していた。


「本当にただ道に迷っただけなんでしょうか」


「それは無いと思われます。ミツ様が対応されましたが、敷地の目の前は

 集落道が一本だけなので……あの奥はそのままぬし様の山に向かうだけです。


 まあ本当に距離とか、あとどれくらいで山に入るかとか聞きたかっただけかも

 知れませんけど」


満浩みつひろさんが妙な男に絡まれた―――

またあのバ……お兄さん絡みかとも思ったけど、いくら何でも入院中だろうし、

そこから何か出来るとも思えない。


あの格闘ジムみたいにどこかへ連絡を付けるにしろ、その件では手痛い目に

あっているので、うかつに同じような行動は取らないだろう……多分。


「それで、満浩さんは何と?」


「『ヘンなヤツが来たなあ』くらいで済ませていました。

 何ていうか……こう言っては何ですがあの危機感の無さは、生まれと育ちの

 せいか過酷な状況に慣れ過ぎているからではないかと」


「否定出来ないのよね、それ。

 それになまじ格闘経験もある人だから、たいていの荒事も難なく

 あしらっちゃうし」


私と詩音さんはお互いにおでこをくっつけるようにうなずく。


「それで連中の動向は?」


「アタシの仲間の数人が街に留まって、監視続行中です。

 何かあったらスマホに連絡を入れるよう決めてありますが……


 この山奥までだと電波が届かない可能性もあるので、

 PCカフェなどから直接、倉にあるミツ様のPCにメールが行くよう

 手配してあります」


確かに東京とは違い、ここは電波状況が悪い場所がいくつかある。

詩音さんの方法が確実だろう。


「でも満浩さんのPCでしょう? 勝手に使っても大丈夫なの?」


理奈りなちゃんが言ってましたけど、この家や倉の中のものであれば、

 たいていは制御出来るんだそうです。

 『管理者権限』もそれに入るそうで―――」


理奈りな』=倉ぼっこさんの事ね。

何気にとんでもないスキルのような……

詩音さんもそうだけど、みんなあの鬼っ子さんのところで修行してすごく

能力UPしてそう。


「わかったわ。こちらも人脈を通じて調査してみたいんだけど―――

 連中の素性とか、何かわかる情報はある?」


「ご心配なく。仲間が名刺を何枚か抜き取ってきましたから。

 ここにありますのでどうぞ」


シルバーの長髪の着物美人が、すっ、と数枚の名刺を畳の上に置く。


「ありがとう。これからも満浩さんの事を頼むわね」


「奥方様の言う事なら何でも」


そして私からもバッグを開いて、


「それで、新しいファンデとかリップとか持って来たんだけど」


「やった♪ こういうのは奥方様にしか頼めませんからぁ~♪」


いそいそと受け取ると彼女(?)は佇まいを直し、


「じゃあさっそく試してみますね!」


寝室を出て行こうとする詩音さんに私は首を傾げ、


「?? 私がいなくても大丈夫なの?」


「だって、もう『夜』でしょう?

 お2人の時間を邪魔するほど、野暮じゃありませんよぉ~♪」


思わず顔が紅潮する。

鏡を見たらきっとわかりやすく真っ赤になっているだろう。


そう、あくまでも3人は修行の間、1人ずつ交代で帰って来ているだけだと

聞いている。

だから深夜から早朝にかけてしか家にいられないのだ。


つまりその時間はちょうど、『お2人の時間』とブッキングしてしまう

わけで……


「気を使わせて悪いわね。このお礼はちゃんとするから」


「お礼は現物でお願いしますっ♪」


ウィンクして去っていくその姿はとても男性のそれとは見えず―――


「じゃ、私も気合い入れますか!」


軽く自分の頬を叩くと、今日の『戦闘服』に着替えた。


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