第34話・合宿?・01


母の襲来から2日ほど経った後―――

老舗旅館『源一げんいち』から人が来るので待機していると、

それはやって来た。


「おー、ここかぁ?」


「ずいぶんと古いな。トイレとか大丈夫なんだろうな」


ワンボックスカーが3台ほど停まったかと思うと、そこからガタイのいい

青年が10人ほど降りて来た。


何か車が来たとの事で倉ぼっこに呼ばれたのだが、その団体と面識は無い。

俺は彼らに近付き、


「失礼ですが、どちら様でしょうか?」


そう聞くと四十代くらいのリーダー格らしき男が振り向き、


「あぁ? 聞いてねーのかよ」


「ここは私の家であり私有地です。あなた方の事は何も聞いていません。

 不法侵入にあたりますので出て行ってもらえますか?」


俺の言葉に、荷物を降ろし始めている若い連中はざわつき始めるが、


「ここで合宿するって話、聞いてねぇのか?」


「合宿? ここは民家ですよ?

 そんな商売はしていませんし、これだけの人数を収容出来る食料も布団も

 ありません」


すると面倒くさそうに、その角刈りの男は頭をかきながら、


「あんた、安武やすべって名前じゃないのか?」


「確かに安武は私ですが……」


すると彼はスマホの画面をチェックしながら、


「ここの管理人ってヤツに予約を取ったんだよ。

 今は俺の弟がいるから、問題ありませんってなあ」


あのクソ兄貴の仕業か―――

俺は天を仰ぎ、いったんため息をついた後、


「ここは管理人なんて雇っていませんし、この民家と土地の所有権は

 自分にあります。

 その兄と名乗る人物と何があったのか知りませんが、私は何も

 聞いていません」


ある意味彼らも被害者だけどなあ……と心の中で同情していると、


「おいおい、こっちはすでに金払っているんだぜ?

 そっちでトラブルがあったかも知れねぇけどよ、こっちには

 関係ねーだろ」


「……そもそも私は何の連絡も受けていません。

 入って来られても食料も布団も足りません。


 確かに兄はいますが、その連絡先も私は知りません。

 そちらで確認は出来ないんですか?」


そこで彼は面倒くさそうにスマホを操作して耳にあてるが、

それは繋がらず―――


他の若い青年たちは『騙されたんじゃ……』『詐欺?』『マジかー』

と半ば諦めるような声が上がる。


「チッ、しょうがねぇな。

 仕方ねえ、お前ら荷物だけでも中に入れろ!

 食料は後で買い出しに行けば何とかなるだろ」


「いやですから、入らないでくださいと言っているんですけど……」


それでも強引に推し進めようとする彼を何とか止めようとするが、

そいつは俺の胸倉をつかむと、名刺のような物を見せ、


「……オイ。優しくしている間に言う事聞けってんだよ。

 ここまで来て帰れってそりゃねえだろ。


 こっちだって被害者なんだ。そっちもちょっとは協力してくれても

 いいんじゃねーか?」


その名刺によると、どうやらどこかの格闘ジムの人間らしいが―――

俺は胸倉をつかんでいる手を握り返すと、


「警察を呼びますよ?」


「あぁ? だったら警察なんて呼ぶ気も起きないくらいに『稽古けいこ』して

 やろうか?

 ごまかしようなんざいくらでもあるんだぜぇ?


 少し手合わせしてくださいって無理やり頼まれましたー、

 いや手加減はしたんですけどねえ、ってよぉ?」


周囲の連中はそれを見てオロオロとしている。

どうやら頭が悪いのはコイツ1人と見て間違いないようだが。


しかし格闘技経験者だとすると少し厄介だな……

と思っていると、いつの間にか川童かわこが俺のそばにいて目が合い、


俺がわずかにうなずくと同時に、川童が手を伸ばし―――


「ぐえぇっ!? んなっ!! 何ぃ!?」


川童はそいつの片腕をつかむと、一気に握りしめる。

はたから見れば俺が彼の片腕をつかんでいるとしか見えないだろうが、


「いてっ!! いでぇ!! 痛ぇよおぉお!!」


恐らくこの中では責任者で実力トップの人間が悲鳴を上げているのを見て、

周囲は遠巻きに足を退かせる。


暴れ馬を水中に引きずり込むという河童の怪力と握力だ。

普通の人間では抵抗出来ないだろう。


川童と一緒に腕をつかんだ俺がしゃがむと、彼もまたひざまずくように身を屈め、


「安武さん、どうしたんですか? この人たちはいったい?」


ちょうどそこへ旅館『源一』の人たちがやって来て、


「あ、すいませんが警察に通報お願いします」


そして俺は警察が到着するまで、彼を拘束し続けた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る