第35話・合宿?・02

「……いや、布団も食事も足りないって言っているのにねえ。

 無理やり泊まろうってそりゃ無茶でしょ。


 あとこの民家と土地は正式にこの人のものだと確認されたので、

 不法侵入で訴えられたら間違いなくアンタら全員逮捕だよ?」


警察の到着後、格闘技ジムの連中は厳しく注意されていた。


ただこちらも、あのクソ兄貴とは本当に血縁者である事を正直に

話さなければならず……

一方的な被害者である、とも言い難くなってしまった。


恐らく、あのババアからこの家の管理者になったと言われ、それを前提として

勝手に動き始めたのだろう。

しかしたったの2・3日でこうまで迷惑をかけてくれるとは、ある意味

尊敬に値する。


「まあ、こちらの身内が迷惑をかけたのは確かなようなので……

 どうか大目に見て上げてください」


俺が擁護すると、リーダーらしき角刈りの四十代以下、若い子たちも

安堵の表情を浮かべる。


話をまとめると、どうもその角刈りの男が引率者で―――

さらにクソ兄貴の知人だったようだ。


以前から合宿先を探しており、ちょうど家の管理者になったと

吹き込まれたあのバカが、酒の席で『俺に任せろ!!』と独断で

決めてしまったとの事。

しかもその後、金も振り込んでいたので完全に信用していたらしい。


だがこのまま帰しても逆恨みされかねない。

そこで俺は一計を案じ、その男に近付いて、


「もしかしたら、兄貴にハメられたんじゃないですか?」


「え?」


角刈りの男はきょとんとした表情になるが、


「私が格闘技経験者とか、兄貴は言ってましたか?」


彼は首を左右に振り、俺は大げさにため息をつく。


「……多分、あなたに恥をかかせようとしたんでしょう。

 それに私は兄貴と仲が悪いから、それが失敗したところで

 私に迷惑がかかるだけ。


 どっちに転んでも構わない、そう思ったんでしょうね」


「く、くそ……あ、あの野郎が……!!」


すると男は耳まで真っ赤になる。単純でスゲーわかりやすい。


「他に若い人たちもいるようですし、訴えるような事はしませんから

 安心してください。


 ただ失礼ながら言わせてもらえれば、あまりあの男を信用しない方が

 いいかと思います」


「悪ぃ、あんたには迷惑をかけちまったようだ。

 しかしあんた、本当にアイツの兄弟かい?」


「あ、それは俺も思いました」


「すごく礼儀正しいですし、本当に弟さん?

 って感じでしたもん」


その男の後に若い人たちも続き、俺は苦笑で返した。




「いやー、何か知らないが災難だったねえ」


「すいません、ご迷惑をおかけしてしまって―――」


警察と格闘技ジムの連中が去った後、改めて『源一げんいち』と取引し、小魚や獲物、

木の実などを車に積んでもらう。


そして帰り際、『次に何か持ってきて欲しい物はあるかい?』と

聞かれ、俺は川童とアイコンタクトを取り小声で、


「何かあるか?」


「んー、じゃあちょっと動いて疲れたっぺ。肝をお願いするべ」


そこで俺は『源一』の人にレバー各種を頼み……そのトラックを見送った。


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