第36話・報復とお土産


「あら、そんな事があったんですか」


「う、うん……」


週末、裕子ゆうこさんがたずねて来たのだが―――

いきなり合宿先にされてしまった例の件を話すと、微笑みながらも

ドス黒いオーラを放っていた。


「ステイステイ、ゆっちー」


「ミツ様と川童かわこさんが対応してくれたおかげで、何事もなく

 終わりましたから……」


倉ぼっこと野狐やこが彼女の両隣りに座ってなだめ、


「俺もあとあと逆恨みされたら厄介だから、穏便に済ませたんだよ。

 ある意味あのクソ兄貴の被害者でもあるしな」


「そうですかー」


その微笑みの表情を崩さないまま答える彼女が怖い。


「ちなみに、その格闘技ジムの詳細とかわかりますか?」


「ん? 一応名刺もらったけど」


裕子さんに見せると彼女はそれを受け取り、


「う~ん……都内のジムのようですね。でも聞いた事はありません」


「そういえば裕子さんも、武道をやっていたんだっけ」


自分の諸事情を話し、空手や柔道は手ほどきを受けた事があると言うと、

彼女もまた日本拳法系の道場に籍を置いていると教えてくれた。


「どうも近代格闘技系のようですね。

 基本、伝統的な武術・武道系のところは治安機関と良好な関係を

 持っているので、トラブルはご法度のはずなんですけど」


「確かにあの連中、トラブル上等って感じだったなあ」


そこで裕子さんはふぅ、とため息をつくと野狐に向かい、


「そういえば野狐さん。あなたの群れにご挨拶する件なんですけど……

 一応お土産を持ってきましたので、確認して頂けますか?」


あー、彼女の部屋は二階に準備したんだけど、その時結構な荷物を

みんなで運び入れたのを覚えている。


「あー、じゃあ僕もいくー」


「いいですよ。みなさんにお土産は用意してありますので」


と言って、女性陣(うち一名男の娘)は二階へと上がっていき、


「じゃあ俺たちは昼食の準備でもするか、川童」


「わかったべ、ミツ」


こうして男性陣は台所へと向かった。




「……はい、はい。ええ、どうも……それでは失礼します」


二階の自分に割り当てられた部屋に入った武田は、すかさず電話を

どこかへかけ始め―――

それを倉ぼっこ・野狐が聞き入っていた。


「どーお? ゆっちー」


「いかがな事に相成あいなりましたか?」


スマホから耳を話すと、眼鏡に手をかけながら彼女はクルっと

2人に向き直り、


「私の道場から、警察にそれとなく怪しげな団体がいる事と……

 あとその団体に交流試合を持ちかける運びになりましたわ。


 私、満浩みつひろさんほど優しくはありませんので」


と、満面の笑顔で語り、


「おー、なかなかー」


「しかしミツ様の奥様となるお方に武術の心得がおありとは、

 頼もしい限りです」


そこで彼女はゆっくりとその場に座り、


「未来の旦那様に手を出されて黙っているほど、私も人間が出来て

 いませんから。


 それより野狐さん、お土産はこれで大丈夫でしょうか?」


そこに並べられた物を見ながら人外2人組は、


「油揚げにいなり寿司、各種果物、あとお魚の缶詰かー」


「冷蔵庫にどれだけ入るかわかりませんでしたし、なるべくナマモノは

 避けました。

 いなり寿司は本日0時までなら持つので、それまでに……」


「それとお酒は嬉しいですね。長老たちは飲兵衛のんべえですし、

 それなりに飲む仲間も多いですから」


そこでこそっ、と武田は小声になり、


「あと野生の狐はネズミを主にるというので、準備しようかと

 思ったのですが」


と、スマホを野狐に見せると彼女は耳とシッポをピン! と立たせる。


「こ、これは……冷凍してあるのですか?」


「はい。ペットと一緒にするのはどうかと―――あと、冷凍庫に入れて

 いいものかどうか迷いましたので、今回は持って来ていないのですが」


そこに映し出されたのは、いわゆる肉食系のペットのための冷凍マウス。

倉ぼっこもそれを見て目を丸くしながら、


「う、うわぁ。こんな物も売っているんだ……でも何かキレイだね?」


「多分それは食用ですから、見た目もそれなりに」


「じゅる……これ、美味しいです絶対……! 天ぷらにしたら特に」


「天ぷら?」


そこで倉ぼっこと野狐は、群れに時々ネズミの天ぷらを差し入れている事を

彼女に話し、


「なるほど。そういう事情でしたら持って来ても問題無さそうですね。

 先に聞いておくべきでした」


「お願いしますいや本当にマジで一生ついていきます武田様!!」


すがりつく野狐にやや彼女は困惑し、


「あ! なら僕はスイーツ! スイーツお願いー!!」


人外二人に抱き着かれ、下の階から家主の呼ぶ声が聞こえるまで

解放される事は無かった。


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