第6話・望まぬ訪問者


「どちら様でしょうか?」


俺が無表情で玄関先で対応する相手は―――

180cm以上はある長身の、髪を金髪に染めたいかにもな

チンピラ風の男。


「いやお前、その態度はねぇだろ?

 だいたい何の連絡も無く勝手に引っ越すなんてよぉ」


「何で連絡する必要があるんです?

 あなたに何の関係が?」


俺より10cm以上背の高いそいつは顔を近付け、


「……オイ。お前が昔そういう態度取ったらどうなったか、

 覚えていないのかなぁ? あぁ~ん?」


顔をこれでもかというくらい歪ませて、肩をいからせる。

そこで俺はため息をつき、


「お前こそ記憶改ざんでもしているのかよ?

 俺何度も言ったよな? お前にそう言って絡まれる度―――


 『いつから殺してやりたいほど恨まれているのを忘れたんだ?』

 『思い出させてやろうか?』


 ってさぁ……なぁ?」


するとそいつは近付けて来た顔をビクッと、のけ反らせるように後ずさり、


「……ケッ、まだ昔の事を根に持ってんのかよぉ?

 だーかーら、お前はガキなんだよ?」


「それも何度もお前に聞いたよな?

 『そういう態度を取るのが大人なのかよ』と―――


 答えてくれよ、なぁ」


「てめぇよぉ、さっきからお前お前って誰に向かって言ってんだ?」


またすごみ始めたが俺は周囲を見回して、


「目の前にお前しかいねぇだろ。俺が何もないところに向かって

 しゃべっているように見えるのか? あ?」


にらみ続けていると、やがて男は大げさにため息をついて、


「いやさぁ……家族だろ? 兄弟だろ?

 助け合いや協力するのが当たり前で……」


「お前やババアが俺を家族どころか人間とすら扱ってこなかったのは、

 誰よりも自分がよく知っているよ。


 言いたい事はそれだけか? じゃあ帰れ二度と来るなよ」


「……チッ」


男は舌打ちすると後ろに停めてあった車に乗り込み、そのまま走り去った。

どうやら何人か同乗して来たようだが……


「ミツ、誰あの人?」


そこでいつの間にか俺の隣りにいた倉ぼっこが顔を上げ、


「家族や兄弟と言っていたっぺが……」


続いて川童かわこも反対側で聞いてくる。


「そういやあいつは田舎に来なかったもんな……

 あれは亮一りょういち。一応、俺の兄という存在だよ」


その答えに、2人は丸く大きく目を見開いた。




「……どういう事ですか安武やすべさん。

 彼は『俺の弟だから何でも言う事を聞く』と―――あれは嘘ですか」


亮一が乗った車に同乗している、秘書風の眼鏡をかけた二十代後半くらいの

女性が、非難めいた視線を隣りの彼に向ける。


「いやまぁ、兄弟なんだしそりゃいろいろと、ね?

 俺もまさかアイツがまだ根に持っていたとは思ってなくて。

 ホント昔っからネチネチグチグチしたヤツでねぇ」


帰りの車の中で、満浩みつひろの兄は言い訳を続け、


「幸い社名は出していなかったようですし……

 あなたの見た目通りのクズっぷりを確認出来ただけでも

 良しとしましょう。


 もし失敗したり、彼に対し我が社の印象を下げたら前金を返す程度では

 済まないと思ってください」


すると亮一はムッとした顔になり、


「あんだぁこのアマ? 女だと思って甘い顔してりゃふべっ!?」


食ってかかろうと胸倉むなぐらをつかんだ彼を、彼女はあっさりと

アッパーのように手首を下にした掌底しょうていで返す。


「話を聞いておりましたが、どうもあなたは弱い者、無抵抗な者には

 強かったみたいですね。

 そしてきちんと対抗してくる相手には弱い、と。


 これ以上やりたいと言うのであれば、わたくしの通っている道場に

 このまま案内して差し上げてもよろしくてよ?


 わたくしで満足出来なければ、あなたよりガタイのいい相手も

 おりますし」


顔を抑える彼を見て、運転席と助手席に座る男性陣は『あちゃー』

という表情になる。


「部長、そのヘンで」


「お前も命知らずだな、その人に手を出そうとするなんて」


その後、亮一は無言になり車内は静かになったが、

部長と呼ばれた女性はふと何かを思い出したかのように

下唇に人差し指をあてて、


「……そういえばあの子たちは何だったのかしら。

 あの近所にそんなに家は多く無かったと思うんだけど」


「えっ」


「えっ?」


前方の、恐らく同じ会社の人間の反応に彼女は隣りの男に顔を向けて、


「?? だってあなたも見たでしょ?

 彼の両隣りにいた髪の長い着物の女の子と、真っ黒に日焼けした男の子」


「い、いや? 満浩しかいなかったぜ?」


その後、車内は全員無言となり―――微妙な空気のまま走り続けた。


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