第127話・銀視点03
「銀さーん、これそっちの上の棚にお願い!」
「わかったっぺ」
「銀ちゃん、それ終わったらこの荷物、二階まで持って行ってくれる?」
「わかっただ」
老舗旅館『
仕事をこなす。
「いやあ悪いね、
どうしても力仕事は若い男に頼りがちだから」
「これくらい、どうって事は無いべ。
それにオラも、ミツのところでいつまでも遊んでいるわけには
いかないっぺな」
川童=河童であるオラはかなりの力持ちというか、怪力と言ってもいい。
人間が作業するくらいのものなら、朝飯前といったところだ。
力仕事が中心なので、接客までは手が回らないだべが―――
お客さんの中に『わかる』人がいないとも限らないので、それはそれで
いいと思っている。
「銀さん、お疲れ様。お茶にしよう」
「わかったべ」
そして仕事が一段落したオラは、厨房へと呼ばれた。
「あら彼女持ちなの!?」
「そりゃあ残念だわー」
「せっかくイイ男が来たと思っていたのに」
オラはそこで女性陣に囲まれていた。
ただ結構平均年齢高めの方々で、少なくとも加奈さんほどの女性はいない。
「いやホント助かっているよ、兄ちゃん。
若い人は貴重だからなあ」
そこで板前というか料理長らしき人がやってきて、何気なくあいさつを交わす。
「……しかし兄ちゃん、水関係の仕事とかしてきたのかい?」
その問いに一瞬ドキリとしたが、
「アラやだ! 確かにイイ男だけどそりゃ失礼だよー」
「確かにねえ。この顔ならホストでもモデルでも何でも出来るって」
女性陣が笑いながら茶化してくるが、
「スマンスマン、そうじゃねぇんだ。
ただ年食うとな、そういうのが気になっちまうんだよ。
長年火を使う仕事や、水に接してきた人間とか……
そういう『匂い』がしたんだ」
ああ、そういう事だっぺか。
水商売ではなく、漁や水産関係の仕事をしてきたという意味―――
ただこの人カンが鋭そうだべな、下手に誤魔化すのはやめておくべ。
「うーん、どうだべなあ。
泳ぎは子供の頃から得意だし好きだったべ」
「おー、なるほど」
「この通りオラは河童だべよ」
そして頭の頂上の皿を見せると、
「いやいやいや、いいからソレ!」
「もー銀さん、体張り過ぎ!」
「あー、彼女さえいなければウチの娘をもらってくれとお願いするんだがなあ」
そして談笑の中、何とかうやむやに出来たっぺ。
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