■2章 覚醒と戦い
第31話・心機一転
「あっさりするほど終わったよ。本当にただの便利な雑用係としか
思われてなかったんだな、俺は……」
「こう言っては何ですけど、現場の人間はいくらでも替えが効くと思って
いるんでしょうね。
実害が及ばない限り気付かないタイプですよ、あの上司は」
翌週、事情を話し転職するために出社したのだが―――
引き止められる事もなく退職届は受理された。
あの職場はもう10年以上勤めてきたのだが、あれ以上続けても出世の目は
無かっただろう。
そういう意味では武田さんの誘いは良い機会だったのかも知れない。
「じゃあそういうわけで、これからよろしくお願いします。武田部長」
「よろしくお願いします、
お互いにペコリと頭を下げ合い、
「それでー? 今後はどうするのー?」
倉ぼっこが俺の
「今月の残りは有給休暇で消費するよ。引継ぎも終わっているけど、
何かあったら今月いっぱいは対応するからって、若い子たちにも
言ってあるから」
「律儀ですねえ、ミツ様」
「もう辞めたところだべ、そこまでしなくても」
「そこがまあ、
裕子さんに評価され、気恥ずかしく思っていると、
「おー、ノロけたノロけた♪」
「ご馳走さまです」
「すっかり女房だべなあ、武田さん」
人外3人組もからかうように笑顔で返す。
「えっと、そ、それでは―――
来月から来て頂くという事で大丈夫でしょうか?」
「あ、はい。そうして頂ければ。
俺もその間に準備は済ませておきますので」
ごまかすように俺と裕子さんは仕事の話に切り替え―――
しばらく雑談が続いた。
「お世話になりました。
それでは、こちらは手続きを進めておきますので」
「よろしくお願いします」
数日後、彼女は東京に帰る事になった。
本社に戻り、俺の具体的な配置や机、仕事環境などを準備するとの事だ。
「どーせまた週末には来るんでしょー?」
「もちろんです! 金曜の夜には来ますよ!」
倉ぼっこにガッツポーズで裕子さんは答える。
「あ、あと武田様。今度アタシの群れと長老にも会ってください。
妖怪を認識出来る貴重な人材ですので―――」
「ええ、わかっているわ」
俺と同じ『怪異を見える・意思疎通出来る』タイプの人間だとわかったので、
ぜひにと野狐の群れから会見を希望されたようだ。
「気を付けて帰るべよー」
「はい。そちらも
倉ぼっこさんも野狐さんも頼んだわよ」
「任せておいてー!」
「妙な虫は近付けませんから!」
こうして人外3人組とあいさつ交わし、彼女は帰っていった。
「そういえば3人とも、ずいぶんと裕子さんと仲良くなったんだな?」
特に同性同士(野狐は男の娘だが)、親しくなったような感じだ。
「まーねー、メアドも交換したし」
「ミツ様が浮気なんかしたら、アタシたち経由で一発ですよ?」
そりゃ怖いな、と肩をすくめて苦笑するが、
「……待て。お前らもしかしてスマホとか持ってんのか?」
すると着物姿の二人は正反対に視線をそらし、
「いやー野狐ちゃんのツテでいろいろと?」
「む、群れの中には人を化かすのが得意な者もおりますので―――」
そういえば野狐、最初にWi-Fi使えますか? って聞いてきたもんなあ。
そりゃ端末くらい持っているか。
(■1章09話・野狐参照)
「まったく、俺が払ってやるから他の人を化かすのはやめろ。
あと、川童はどうなんだ?」
「オラはよく水に潜るからなあ。怖くて電化製品は持ち歩けねえっぺよ」
あーそうか河童だし。水中で
ないだろう。
という事はこの2人の分の端末を何とかすればいいだけか。
俺は次の日から、新たに端末の契約の支払先を変更するために動き始めた。
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