■3章 新たなる敵?

第61話・最終試験後・01

「この通りだ。どんな事でもするし何でも詫びる。

 だが社員どもは俺の命令を聞いていただけだ。そいつらは見逃してくれ」


家の居間で、俺の目の前で土下座しているのは―――

あの『島村建設』の社長さんだ。


「それが、どうして俺の家に?」


「狐? が変身していた女に言われたんだ。

 あんたにぬし様とやらが、意を伝えていると」


まず俺は、右隣りにいる裕子さんと顔を見合わせ、


「(実際まあその通りなんだが、俺が交渉していいのかな)」


「(いいんじゃないですか? それにこの場に全員いる事ですし)」


裕子さんの言う通り、彼女の反対側の俺の隣りには鬼っ子が……

そして代表として来たのであろう社長とその部下2名の後ろには、

理奈りなぎん詩音しおんの3人が立っており、彼らを挟むような

状況になっていた。もちろん連中には人外の姿は見えないだろうけど。


「確かに、詫びる方法を夢で見たような気がする。

 でもうかつな事を言ったら、俺にもたたりが来そうで嫌なんだよなあ」


一応、やるからにはちゃんとやれと釘をさしておく。


生半可なまはんかにやる気は無い。

 俺一人ならともかく社員たちの身に危険が及ぶからな。


 首を差し出せというのなら俺だけで勘弁してくれ」


大方の事は理奈りなたちから聞いていたけど、かなりキツいお灸になったようだ。

そこで俺はコホン、と咳払せきばらいして、


「主様は、あの山に家を欲しているようだ。

 御殿ごてんとまでは言わなくても、人一人が住めるような―――」


そこで社長とその部下たちが顔を見合わせる。


「もともと、最低限のプレハブは建てる予定でしたが……」

「そんなんで納得するわけねぇだろ、バカ」

「人が住めるというのなら、電気ガス、水道とか」


そこで俺が片腕を挙げ、


「そのインフラとかって大丈夫なのか?

 山奥になると思うけど」


すると幹部と思われる一人が、


「水は近くに川や水源があれば大丈夫かと。

 排水もそれほど手間はかからないし―――


 でも電気やガスはなあ。

 発電機やプロパンガスとかの設備が必要になるし」


そこでああでもない、こうでもないという議論が続くが、


「……いっそ、トレーラーハウスを引っ張ってくるというのは?」


裕子さんが俺の隣りから提案する。


「まあ確かにそれなら、諸々もろもろの事は解決しそうだが」

「一度設置した場所から移動しないってんなら、家を建てるのと同じだしな」

「アメリカントレーラーとかってものすごく高価じゃなかったか?」

「値段はそれほどでもないが、輸送費が……」


と、向こうでいろいろと話し込み始めたので、俺が手持ちのスマホで

『国産 トレーラーハウス』で検索し始め―――


「こういうのは?」


画面を見せると、それを見た『島村建設』の人たちは自分たちでも検索し始め、


「これなら大丈夫そうだな」

「値段もそれほどでも無いし、ただやはり電気ガスがネックか」

「照明くらいでいいのなら、太陽光発電が使えるってありますね」

「オール電化にすればガスはいらねぇが……」


と、段々と話が進んでいく。


「(ミ、ミツ殿! アタイはあれがいい!)」


それまで黙って見ていた主様が、一人が持っているスマホの画面を指差すが、


「(え? どれですか?)」


「(あれじゃ、あれ!)」


「(とは言われましても―――)」


向こうでは3人があーでもないこーでもないと話し合っているので、

指定されてもどれがどれだかわからず……


「だから、これじゃっ!!」


と、鬼っ子様がそのスマホを引っ手繰ひったくるようにして俺に見せつける。

だが、その光景は目の前の連中にどう見えるかというと―――


「な、何だ今の声は!?」

「ううう、浮いている!?」

「ス、スマホが空中に……」


彼らには鬼っ子他人外の姿が見えない、となればそうなるのは当然の

反応だろう。


俺はそのスマホを受け取ると、そこにあった画面を連中に向けるようにして、


「『これ』がいい、と主様が」


社長がスマホを受け取ると、畳に額をこすりつけ―――


「か、必ず!! すぐ手続きをするのでお待ちくだせえ!!」


そして建設会社の3名は、逃げるようにしてその場を後にした。

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