第62話・最終試験後・02


「取り敢えず持って来たが―――確認して欲しい」


二週間後、『島村建設』の連中は注文通り、トレーラーハウスと共に現れた。


「大きいな……」


家の敷地内でその巨体と存在感を示すそれに、俺が思わずこぼすと、


「もっとデカいのもあったけどよ。

 あまり大きいと道路を走れなくなるんだとさ。


 ただ内装はそれなりに揃えたつもりだ」


中を見せてもらうと、TVに冷蔵庫、コンロ、それにシャワー付きの

お風呂まであり、


「いいんじゃないですか?」


裕子さんも一通り中を見て太鼓判を押す。


「それじゃあ向かおう。

 設置するにもそれなりに時間がかかるらしいからな」


社長はそう言うと、修理したであろう例のベンツに乗り込み……

俺は裕子さんが乗ってきたレンタカーに乗って、彼らの先導として

走り始めた。




「理奈たちはついて来ているかな?」


「大丈夫。トレーラーハウスの上に飛び乗るのを見たわ」


今後、トレーラーハウスが鬼っ子の住処すみかになるのだ。

必然的に、お供えや差し入れを持って行く場所はそこになるので、

彼らも場所の確認という事で同行していた。


そして山奥に入っていくと、木の上でそのぬし様が手を振って出迎える。

彼女は木々の間を飛び回りながら、誘導するように先を行き、




「ここ、か?」


「山の中に、こんな開けた場所があるなんて」


「小川も流れている。ここなら設置場所としちゃ申し分ない」


小一時間ほど車で揺られて来た場所は―――

50メートルほどの開けた平地。


そして彼らは設置のため、小川に何らかのチューブを引き入れたり、

ソーラーパネルや発電機の準備に取り掛かった。


その光景を10才くらいの少女に見える鬼っ子が、にこにこしながら

見ており、期待に胸を膨らませているのがわかる。


そして所要時間にして一時間ほど……

鬼っ子に捧げる『家』が完成した。




「オール電化にしたから、ガスは無い。

 発電用のバッテリーは普通のコンセントで充電出来るから―――

 その時はあんたのところを使わせてくれ。

 もちろん、金は払う。


 水道は川がすぐ近くにあったからもう使えるし、風呂だって入れるぜ。

 まあ主様が風呂に入るかどうかはわからねぇが」


その主様は俺の横でそわそわとしており、


「もう入っても大丈夫なのか?」


「おう。カギは一応コレだ。今は開けてあるが」


そう俺が社長と話していると、待ちきれなかったのか鬼っ子がそのカギを

奪うように引っ手繰ひったくる。


そのままトレーラーハウスの入口に突進し……

俺や裕子さん以外の目には、カギが空中を浮かんで移動しているようにしか

見えないのだろうが。


そしてドアが開き、やがてトレーラーハウスの中から各部屋の扉が開いたり

電気がついたり消えたりする。

連中から見れば立派なポルターガイスト現象だろう。


『島村建設』のいわゆる『見えない』連中は、目を丸くして事の成り行きを

見守っていたが、


やがて堪能したのか、喜色満面きしょくまんめんの鬼っ子がトレーラーハウスから出て来て、

親指を立てて『ぐっじょぶ』の仕草をする。


「どうやら満足して頂けたようだ。

 後はもう帰っても―――ん?」


すると主様は俺に耳打ちするように顔を近付けて来て、


「(思ったよりも良い住処じゃ!

 こやつらに褒美ほうびをくれてやってもよいか?)」


「(まあ、主様がそれでいいのなら別にいいと思うけど)」


そして彼女はビュン! と疾風を巻き起こして去って行き、


「じゃあ、俺たちはこれで……」


連中は帰るために車に乗ろうとするが、


「いや待ってくれ。

 山の主様が、あのトレーラーハウスを相当気に入ったようだ。


 それで、あんたらに渡す物があると」


「へっ?」


1人が気の抜けたような声を返し、数名が顔を見合わせてざわつく。

すると社長がベンツから離れ、


「カンベンしてくれ。

 気を悪くしたのなら、もっと上の物を持ってくるから―――」


「ああいや、本当にそういう事じゃなくて」


俺も何を持ってくるのかわからないし、どう説明したものやらと

思っていると、


『ガチャンッ!!』


と、どこからか金属音が聞こえ、その元へ目をやると……


「箱?」


「いつの間に車の上に、こんな物が」


社長の車であろうベンツの上に、古びた箱が置かれ―――

全員が視線を集中させた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る