第248話・移住者1号02


「おー、君が『一つ目小僧』だっぺか」


「一晩、お世話になります」


帰って来た銀に対し、彼―――『人見ひとみ』君はペコリと頭を下げる。


「ああ、彼はもう『人見』君って名前があるから、それで呼んであげて」


「そうなんだべか? じゃあ覚醒するのも近いだべ」


俺と銀がそんな会話を交わしていると、『雲外鏡うんがいきょう』さんが不審そうな顔で、


「そう簡単に覚醒とか言うがな……

 妖力ようりょくが上がるというのは、並大抵の事態ではないぞ。


 人間ベースだからかも知れないが、俺や『飛縁魔ひのえんま』、『雪女』たちに

 そんな事が起きたという話も聞かないし」


まあこの目で見ていない事に対しては、半信半疑なタイプなのだろう。


「明日になればわかる事ですよ。

 銀が帰ってきた事ですし、夕食にしましょう」


「オラ、『源一しょくば』からデザートもらって来ただよ。

 食後にみんなで食べるべ。電話で連絡受けてたから人数分あるだ」


銀がそう言って出してきたのは紙製の箱で、


「中身は何だ? 和菓子? 干し柿とか」


「ショートケーキとモンブラン、あとベイクドチーズと

 フルーツシャルロットがあるべよ」


そこで『雲外鏡』さんが姿勢を崩し、


「いや老舗旅館で働いているんじゃなかったのか?

 何でそんなものが―――」


「?? 今時は和洋中何でも出来なければダメだって、板長も言ってたっぺよ。

 ちなみにあの人、普通にイタリアンやフランス料理も少しは出来るって

 言ってたべ」


そんなものなのか、と思いつつ……

俺たちは男4人で食卓へと向かった。




「何か変な……いえ、失礼。妙な場所ですねここは」


夜になり、客間に布団を用意された『人見』は、同室になった

『雲外鏡』に語り掛ける。


「何というか、あいつらの方が都会慣れしているという感じだ。

 やたらPC関連の知識も詳しかったしな。


 今度俺のPCも見てもらうか」


「もし僕が覚醒したら、『雲外鏡』様はどうなさいますか?」


本当はここに押し付けて行くつもりで来た彼は、その質問に目をそらし、


「今しばらくは裏の仕事は開店休業状態になるだろう。


 お前自身、ゆっくりと考えるがいい。

 さて、もう寝るか」


そこで『雲外鏡』は電気を消し、そのまま2人で就寝した。


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