第18話・嫌がらせ・02


「ウナギ3匹、オイカワ5匹、ウキゴリ8匹、アブラハヤ13匹……

 今回は川魚が多いですね」


「ええまあ。種類がわかっていて獲っているわけじゃないですけど」


老舗旅館『源一げんいち』の人と話しながら、引き取ってもらう

獲物を確認してもらう。


「他はエビや沢蟹さわがに、それに季節の山菜や木の実が―――」


「ちょっといいですか?」


そこへいつの間にか、Yシャツにネクタイをしめた眼鏡の男性が割って

入って来た。


年齢は50才前後だろうか。もしかしたら役場の人間かもと思い、


「村役場の方ですか? 漁業権についてはちゃんと購入していますよ?」


「ああいや、同じ公務員だけど私はね、税金関係。国税職員ってヤツね」


そこで俺と『源一』の従業員は手を止めて顔を見合わせる。


「え? 何かありましたか? ちゃんと確定申告とかはしていますけど」


すると彼はペンでトントンと川魚が入ったプラスチックの箱を叩いて、


「これよ、こーれ。まあ個人でも売買するなとは言わないけどさ。

 ちゃんとこの分確定申告に入れてる?」


「入れていませんけど」


俺が即答すると、国税職員と称す彼は大げさにため息をついて、


「あんたねぇ、税金舐めてんの?

 少しでも利益が上がったら個人でも申告しなきゃならないのよ。


 今はマイナンバーもあるしインボイスだって考えてやらなきゃ

 いけないの。個人でもね」


そして今度は『源一』から来た方へ向き直り、


「それにあんたは旅館の人間だろう? いいのかい、こんな商売しちゃって。

 素人じゃないんだからさ。会計士だってちゃんと雇ってんだろ、なぁ?」


俺と従業員の人が今いち理解出来ない、という表情をしていると、

それが気に食わなかったのか、


「あのさぁ、売買して上げた利益を申告してないんでしょ?

 それって犯罪なのよ、わかる?


 あんまり反省の無い態度取っていると追徴課税だって重くなるよ?

 わかってるそのヘン?」


そこでようやく俺と『源一』の人は一緒に彼の方へ向いて、


「お金もらってなくてもですか?」


「ウチ、代金なんて払っていませんけど……」


その答えに、乱入して来た彼は口をポカンと開ける。


「は? はい? え? えええ?」


混乱しまくる彼を前に俺たちは続けて、


「これらの物は『源一』旅館さんにあげているんですよ、タダで」


「いわばウチは安武やすべさんにもらっている立場で」


2人の言葉に彼は愕然がくぜんとなるも、気を取り直したのか口を開き、


「そ、それだけなのか? アンタは何ももらっていないんだな?」


それに対し俺は首を左右に振る。そこで国税職員は希望を見つけたように、

口元に笑みを浮かべるも、


「いえ、『源一』さんからはお米や調味料、料理やお弁当などを頂く事は

 ありますけど」


「ウチとしてもただもらうだけじゃ申し訳ないんで。

 お返しにお渡ししています。それで何か問題でもあります?」


これは俺からの提案で―――個人売買という形になると、いろいろと

後で面倒になるからという理由で、現金が移動するやり取りはしないで

もらったのだ。


その代わりこちらの要望する物をもらうようにしたのである。

いわば物々交換で、金銭のやり取りは一切ない。

まあその物々交換の中に、PCやその周辺機器までお願いしているのは

アレだけど。


「し、しかしだねえ。あんたのところは老舗なんだろう?

 そこがタダで仕入れた食材を出すっていうのは―――」


彼はなおも食い下がるが、


「あのねぇ、季節の山菜や食材は自分たちが直接採取してくる事もあるし、

 だいたいここに来るまでの人件費、燃料費だってタダじゃねぇんだぞ?

 わかってんのか?


 それらは全て計上してあるが? まだ文句があるのかよ?」


「……しっ、失礼、しました……っ」


語気が荒くなる従業員の人に恐れをなしたのか、彼は外に停めてあった

スクーターに乗り込むと、一直線に遠ざかっていった。


「何かヘンなのが来たねえ」


「田舎の農家や個人同士じゃ、物々交換はフツーにあるんですけど……」


「ったく、税金取る時だけ厳しいよなあホント」


他の従業員の方々も口々にあの国税職員に向けて不満をグチる中、

俺はその裏にいる人物について考えていた。


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