第19話・野狐の能力
「くっ、くそおおっ! どうしてこんな……!」
俺の名前は
元々は都心に勤める国税職員で、同期の中ではそれなりに
出世街道を走っていたはずだった。
だが取るに足らないつまらないミス―――
知り合いから『節税』について相談され、副業の赤字額に応じて所得税が
払い戻される、還付制度を『応用』する技を教えてやったところ……
赤字額を水増しして還付を不正に多く受け取ったとして逮捕されてしまい、
しかも俺との関係をバラしやがった。
幸いにも報酬を受け取るのは事が済んでから、という事にしていたので、
ただの知り合いだという俺の主張は通ったものの―――
こんな田舎の山奥の地方拠点へ飛ばされる羽目になったのだ。
そんな俺のいる職場に1本の電話がかかってきた。
もしそいつを俺の手で見つけ、証拠をつかんだら手柄となる。
しかも地元の老舗旅館まで関わっているとの事で―――
そんな脱税事件を発見・解決出来たら中央へ返り咲くのも夢じゃない。
そんな期待を胸に向かった先ではちょうど取引が行われており、
現場を押さえたと思った俺は嬉々として彼らから事情聴取を行った。
だがフタを開けてみればただの物々交換。
金銭やり取りが発生していない上、ただ食べ物をあげたりもらったり
するだけでは脱税もへったくれもない。
それにもし今回の件で旅館からクレームが入ったりしたら―――
都会に戻るどころか、もはや俺の出世はなくなるだろう。
「と、とにかく早く帰らなければ……」
俺はスクーターを法定速度限界まで上げて走る。しかし―――
「ま、迷ったか?
すでに結構走ったはずなのに、人家一つ見えて来ないなんて」
アラフィフの彼が汗びっしょりになりながらスクーターを飛ばす姿を、
木の上から見送る者がいた。
オカッパ頭で、女子中学生くらいに見える昔風の着物を着た人外。
そしてその両隣りには、倉ぼっこに
「どのくらい迷わせましょうか?」
「んー、燃料切れまでと言いたいところだけど……
最近は燃費もいいし、面倒だしそこまでしなくていいかな」
「じゃ、3時間くらいこの辺をグルグル走らせてやるべ」
そして彼は野狐の能力でさ迷い続け―――
職場に帰る頃には
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