第12話・大好物とタイミング


「あれ? これはアタシの獲って来た獲物じゃないですよね?」


夕食時、出された料理を見てオカッパ頭の女の子が首を傾げるが、


「だって俺さばけねぇもん。まあ野ネズミは何とか調理したし、

 肉なら鳥でも豚でも何でもあるから、それでガマンしてくれ」


俺は箸を動かしながら野狐やこに答える。


彼女が来てから数日―――だんだんと性能というか出来る事がわかってきた。


獲物はウサギや野鳥などいわゆる小動物。

まあ、狐が狩る対象としては妥当だろう。


一応村役場にも報告しようとしたが、ネットで調べると害獣・害鳥と

されるものでも、捕獲には狩猟免許が必要らしい。


だから『動物に襲われて死んだらしい小動物の死体があるのだが、

どうしたらいい?』と聞いてみた。別にウソは言っていない。


すると、『病原菌があるかも知れないので、出来れば土地の所有者の方で

処分して欲しい』との事。


焼くか土に埋めるかするらしいのだが、それを老舗旅館『源一』に相談。

するといつも獲物を取りに来てくれる担当の人がやって来て、それも

魚やスッポンなどと同様に引き取って『処分』してくれる事になった。


まあその『処分』が、焼くか埋めるかそれとも客の腹に入るかは

こっちの知った事ではない。

それにあまり頻繁に『処分』もお願い出来ないので、野狐には1,2ヶ月に

いっぺんくらいの割合で、と指定した。


ただある種の野ネズミは免許や許可は必要無いようなので、

それならいいと彼女には伝えてある。

おかげでしょっちゅう食卓に、かなりグロい天ぷらが出る事に

なったのだが……


「ねーミツ、もうちょっと原型を留めない感じに出来ない?」


倉ぼっこもさすがにそれを見て引くが、


「野生のネズミなんて怖くて切れん。どれだけ病気持っていると思ってんだ」


触る時ですら使い捨ての手袋をして、縁側の外で七輪で調理しているからな。

小麦粉を付ける器も使い捨ての紙製だ。

そしてその後はこれでもかというくらい消毒を施す。


「しかし見ていると食欲無くなるべ……ここだけ文明が感じられねぇっぺよ」


ウナギやスッポンを生で食べる事が出来るという川童かわこも、

これは受け入れられないようだ。


「だからと言って別々に食わせるのもあんまりだろ。そうだなあ……

 野狐、これが出来たら呼ぶから先に食べるというのはどうだ?」


「えー、アタシ大好物は一番最後に食べるタイプなんだけど」


「わがまま言うんじゃありません!!」


こうして食事を摂りながら話し合い―――

俺・倉ぼっこ・川童の多数決により、ネズミの天ぷらだけは全員の

食事時には出さず、食後に野狐一人で食べてもらう事になった。


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