第13話・衝撃的な事実


食事も終わり、一段落してみんなで落ち着いていると……

電子音が鳴り響く。


「風呂が沸いたみたいだっぺ。誰から入るだべか?」


褐色肌の少年のような外見の川童かわこが、順番について聞いてくる。

ちなみに彼は一番最後だ。理由は生臭さが半端ないから―――


「んじゃ俺が」


と立ち上がろうとすると、洋服姿の倉ぼっこが俺より先に跳ねるように

直立して、


「あ! じゃーミツ、僕も一緒に!」


「そ、それならアタシも」


続けて着物姿のオカッパ頭の少女が腰を浮かせるが、


「いや倉ぼっこはともかく、野狐やこは問題だろう」


妖怪、子供とはいえ女の子だ。それも倉ぼっこより外見はやや年上で、

彼が10才前後とすれば彼女は12・3才。

小学校高学年か、中学1年くらいの少女と36才のオッサンが一緒に風呂に

入るのは、さすがに事案だろう。


「はあ、そうなのですか?」


「じゃーミツ! 一緒に入ろー!!」


そこで俺は倉ぼっこと一緒にお風呂に入る事になり……


そして即座に俺だけが湯舟から上がった。




「倉ぼっこ……お前、女の子だったのか……」


「え? 僕、男の子って言ったっけ?」


そうでしたね!! 言ってませんでしたね!!

と心の中で大音響で叫ぶ。


「……まあ、きちんと確認しなかった俺も悪い。

 中性的な見た目とは思っていたが、勝手に男の子と思い込んじまった」


俺は頭を片手でガシガシとかいて反省する。


「じゃあ、ミツ様。

 アタシとなら入っても問題無かったんじゃないですか?」


「問題しかーよ。俺の話聞いてたか?」


女の子、それも3・4才とかならともかく野狐くらいの年齢ではダメだと

注意しようとしたところ、


「野狐ちゃん、男の子だけど?」


「……は?」


という倉ぼっこの言葉に俺は口を大きくポカンと開ける。


「いやいやいやっ!?

 だって自分の事を『アタシ』って言ってたじゃねーか!」


「?? 言ってましたけど?」


すると倉ぼっこも川童も首を傾げ、


「あー、そういえば男の子はここ100年くらい、そんな感じだったかも」


「だべなあ。昌兵衛まさべえも自分の事は俺って言ってたべ。

 今はもうそんな言い方はしないんじゃないっぺか?」


そういえば落語家や噺家はなしかは一人称が『あたし』だが―――

昔は男がそう言っていてもおかしくはなかったのかもしれない。

そもそも人外だし、人間の常識を当てはめる事自体がなあ。


「じゃあ次からはアタシと一緒に入りましょうね、ミツ様!」


「いや待て。それはそれで別の問題がありそうな……」


倉ぼっこは幼さゆえの男女どっちかわからない、という印象だったが、

野狐はどう見ても女の子、今風でいう男のだ。

そんな彼(彼女)と一緒にお風呂に入るのは二重の意味でマズいだろう。


しかしこうして見ると、外見と性別が一致しているのは川童だけ……

そこで俺は思考を一瞬停止させる。


俺が川童を男だと認識しているのは―――

河童の姿の時に胸が無いのと、人間の姿の時はわんぱく坊主のように

なっているからだ。


そして川童も自分の事を男と言った事はない。

一人称は『オラ』だから、男だろうと判断していたが……


「な、なあ、川童―――

 お前は男だよな?」


「そうっぺよ?」


やっと同性と確認出来た事に、俺は安堵のため息をついた。


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