第209話・詩音視点08


夜10時を回り、メイド喫茶の勤務が終わった後―――

アタシは近くの駐車場で、2人のお客様を前に困惑していた。


「仲間、とはどういう事でしょうか?」


その質問先は眼鏡の長髪の女性と……

もう一人は短髪に丸顔の方で、


「あなたがあやかしという事はわかっているわ」


「私たちも妖だから警戒しないで。元人間だけど―――ね」


覚醒前のアタシは中学生くらいの身長なので、その2人を見上げながら

話を続ける。


「そもそも、あなたたちは?」


そこで彼女たちは顔を見合わせ、


「私は飛縁魔ひのえんま。火の妖よ」


「私は雪女……よろしく」


自己紹介を2人がした後、自分も続けて


「アタシは野狐やこです。


 1つお聞きしますが、アタシがこの店にいるとわかっていて、

 スカウトしに来たのですか?」


その質問に飛縁魔さんと雪女さんは首を横に振り、


「ううん。それはまったくの偶然」


「たまたま通りかかったら妖力ようりょくの気配がしてね。

 それでお店に入ったらお嬢さんがいたってワケ」


アタシはその言葉にうなずくと、


「それで―――元人間の妖怪であるお2人がどういう理由で、アタシを

 仲間にしたがるのでしょうか」


すると飛縁魔と名乗った眼鏡の女性がクスリと笑って、


「単純に人手不足なのよ」


「私たちのビジネスのね。

 一応、持ち帰り・配達飲食サービス業になるのかしら?」


続けて出た雪女さんの答えに、アタシは首を傾げる。


「お弁当屋さんとか、飲食店でしょうか」


一方の女性が眼鏡の位置を片手で直し、


「表向きは……ね」


「裏では人間を害する仕事よ。

 その対象は社会の害になる人間に限定されるけど」


そこでアタシは悩むフリをして、


「まあ、確かにアタシもそういう人間に全く出会わなかったワケでは

 ありませんけれど―――


 ……もしその申し出を断ったら、アタシを消すとか……?」


わざと怯えるように答えると、慌てて2人は首をブンブンと左右に振る。


「そんなまさか、人間じゃあるまいし」


「出来れば黙ってて欲しいけど、あなたも妖だし言いふらさないでしょ」


安心したような表情を見せると、相手もそれでホッとしたのか、


「ま、考えておいてちょーだい」


「気が向いたらまたお店に来るから♪」


そう言うと飛縁魔さん・雪女さんは―――風のように去っていった。


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