第208話・詩音視点07


「お帰りなさいませ、ご主人様、お嬢様♪」


とある週末―――

詩音は秋葉原のメイド喫茶で、いつも通り接客をこなしていた。


だがその姿はというと覚醒前のおかっぱ頭の少女で、


「ミツヤちゃん、こっちこっちー♪」


「ああ、どこからどう見ても詩音様の血筋だわ♪」


そう、最近アタシはこの姿で職場にいる事が時々あった。


というのも週末になると女子高生3人組に絞られ……ゲフンゴホン、

愛を育んでいると、どうしても体力お化けのあの子たち相手に

覚醒後の姿を保つ事は難しく、


そこで弟という名目で―――

諸事情があり預かってもらえないかと自分で手紙を書いて、

メイド喫茶へそれを持って行くと、


『こっこれが詩音ちゃんのミニバージョン……!』

『という事は成長したらこのまま詩音ちゃんに……!?』

『ねーねー君、コスプレに興味無い?』


と、想定通りなし崩しに接客をさせられ、いつものように

メイド喫茶でのルーティンをこなしていた。


実際、覚醒前の姿で人間に姿を見せるというのも、それなりに

妖力制御が必要だけど―――


ぬし様に鍛えられた事もあり、その程度はこなせるように

なっていた。


「こっち、注文いいかしら?」


「はい、ただいま」


その声に振り向き、女性2人組が座るテーブルへ目をやると、

後ろ髪に冷気を吹きかけられたような感覚が広がる。


一人は眼鏡の長髪の女性……

もう一人はショートカットに丸顔の方で、


外見こそ普通の人間だが、妖力ようりょくを感じなかまである事を本能が告げる。

アタシは何も気付かないフリをして、


「ご注文は何になさいますかー?」


と営業スマイルを見せると、


「(大丈夫よ、別に何もしないわ)」


「(あ、でも『仲間』を集めているって言ったじゃない。

 この子ちょうど良くない?)」


そう小声でつぶやき、


「(後で時間もらえたら嬉しいなぁ♪

 可愛い子狐ちゃん♪)」


「じゃ、エスプレッソとクリームソーダをお願い」


そう言うとその2人は―――

一人は指先に小さな火を、もう一人はキラキラ光る氷の結晶のような

ものを出現させ、すぐに消した。


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