第253話・雲外鏡視点04


「すでに話した通り―――

 『一つ目小僧』・人見ひとみは覚醒した。


 そしてお前たちの覚醒に伴う名付けについてだが」


都内にあるマンションの一室で、細面の青年が明らかな異形の者たちと

向かい合う。


ミュージカルの獣人の着ぐるみのような、全身を体毛で覆われた女性と、

大きな傘のような一本足のオバケ―――


猫又ねこまた』と『唐傘からかさお化け』が、彼と対峙していた。


「バッチこーい!

 あー、これでいちいち化けたり、人を化かさなくても人間の姿に

 なれるのにゃ。

 便利、便利♪」


「身構えろとは言わんが、軽過ぎないかお前」


「あっしはどうなるんでございやしょうかねえ。

 やはり和風、ソース顔より醤油顔に憧れますなぁ」


「この前カサブランカがどうのと言ってなかったか?」


俺……『雲外鏡うんがいきょう』は元人間のあやかしで構成された

チームのリーダーを務めていたが、


協力者として低級妖怪も何名かおり、彼らと共に活動していた。


だが警察に目を付けられ、弥月みつき家という妖を狩る一族や、彼らの

協力者である妖怪たちと和解した事で、彼らの手前―――


扱いが微妙になった低級妖怪たちを、どうにかしようと考えていたのである。


そこで向こうの協力者、安武やすべさんに依頼を出したところ、

名前を付ける事で『一つ目小僧』が覚醒し、


それを聞いた他の『猫又』と『唐傘お化け』も、自分たちも覚醒したい、

と申し出て来たのだ。


「……もう一度念のために聞いておくが、俺でいいのか?

 完全な人間、例えば安武さんに頼めばもっと強力な妖力ようりょくを得られるかも

 知れないんだぞ?」


『唐傘お化け』の運搬に難があったので、俺はいったん東京に戻って来て

いたのだが、


名前を付けるだけならどこでも出来るので、ここで彼らに覚醒について

今一度確認を取っていた。


「んー、でも今のままでも人間より強いしにゃ~」


「あっしはとにかく、人の姿になる事が出来れば―――

 活動範囲が広がりやすしね」


その答えに俺は軽くため息をついて、


「少しは考えろ。

 悩んでいた俺がバカみたいだろ」


「何だかんだ言って『雲外鏡』様、面倒見がいいにゃ~♪」


「じゃあ、ドーンとお願いしやすぜ!」


調子が狂うな……さっさと終わらせておこう。


「では『猫又』、お前は―――『麻夜マヤ』だ。

 沖縄の言葉で、猫の事を『マヤー』というらしいので、そこから取った」


「おー……うん、うん。いいですよぉ気に入りました♪」


次いで俺はもう一方の人外に顔を向けると、


「『唐傘お化け』、お前は……『時雨しぐれ』ではどうだ?

 古風かも知れないが」


「あっしは雨に関する妖ですからね。

 なかなか格好いいと思いますぜ、『雲外鏡』様」


ひとまず合格ラインだった事に俺はホッとし、


「後は一晩経ってみないとわからん。

 今夜はここで寝ろ」


「やぁん、帰さないつもりね?」


くねくねと『猫又』が腰を揺らしてポーズを取るが、


「ふざけるとお前だけ晩飯抜きにするぞ」


「あーわかったにゃ! だから焼肉定食で手を打つから

 許して欲しいにゃ~!」


「何が『だから』なんだか。まったく……」


こうして彼らに命名した俺は、一晩様子を見る事にした。


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