第101話・主様との相談・01


「ああ、土地を離れる許可かあ。確かにそれは必要かも」


「そうなんですよね。

 この一帯に住んでいる妖怪たちは、彼女を主とあがめておりますので。

 なので一言あった方がいいかと―――」


翌朝……と言っても昼近く、遅くに目が覚めた俺と裕子さんは、

着替えながら言葉を交わす。


昨夜、女子(一部男の娘)だけで話し合ったらしいのだが……

川童かわこである銀が弥月みつきさんにくっついて行った場合―――

また何らかの機会に理奈や詩音が東京へ行く事になった時、それは

おさから見て許されるのか、という懸念が出たらしい。


それに長自身、もし弥月さんのお兄さんと正式に付き合うような事になった時、

それは無関係ではないのだ。


「でもぬし様はここを離れられない、と言っていたような気が」


「それも含めてのご相談ですね。

 あやかしとしての制限があるのか、それが理奈さんや銀さんにも

 適用されるのかどうか……」


考えてみれば相手は人外、知らない事が多過ぎる。

この機会にいろいろと知っておく事も大切だろう。


そこで俺は朝食兼昼食を終えた後―――

裕子さん、加奈かなさんと一緒に、人間組だけでいったん

主様に会いに行く事にした。




「おお、いらっしゃい! 何じゃ、何用か?」


山中のトレーラーハウスをたずねると、主である鬼っ子がフレンドリーに

家に上げてくれた。


取り敢えず手土産を渡し、お茶がてら雑談を交え、本題を切り出す。


「む? あやつらが上京しても大丈夫か、じゃと?」


「はい。以前主様がここから離れられないとおっしゃっていたのが

 気になりまして。

 それで、何か行動制限でもあるのかと」


10才くらいに見える赤い肌をした彼女は、おせんべいをかみ砕き、


「いや、これと言った制限は無いぞ。

 アタイの場合は、主という責任がある立場上―――

 好き勝手に動けないという意味じゃ」


その答えに、弥月さんがホッとした表情を見せる。


「じゃあ大丈夫なんですね?」


「う~む……それなのだがなあ」


そこで主様は両腕を組んで考え込み、


「何か問題でも?」


裕子さんが聞くと、彼女は眉間にシワを寄せて、


「アタイがここからどうしたら出て行けるか、なのじゃ。


 さっきも言った通り立場的なものだから、出て行こうと思えばいつでも

 出て行ける。

 だがそうもいかん。誰かアタイの留守の間だけでも、ここを守れる者が

 おらねば―――」


人間組で顔を見合わせると、鬼っ子はため息をつき、


「つまりじゃなあ。

 その留守番を理奈や銀、詩音に期待しておるのよ。


 今この一帯でアタイに次ぐ妖力ようりょくを持つ者といえば、

 そやつらしかおらんしの」


こちら側が『あ~……』という表情になる。


つまりいつでも上京するなりしてもいいが、主様がここから出る時、

彼らの行動を制限してしまう、という事だ。


「じゃああのバカ兄―――もとい兄さんが、ここに住めばいいのでは」


「んなっ!? だ、だからそれはもっと先の話で……!」


そこでより具体的な案を練るため、話し合いが続行された―――


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