第84話・兄妹


都内の寂れた場所にある、五階建ての古びたビル。

そこに一人の男が訪れていた。


男はエレベーターに乗り込むと、そのまま最上階に向かう。

扉が開くと、そこにはビルの外見には似つかわしくない、最新鋭の

研究機関のような光景が広がっており―――


琉絆空るきあ君か。

 今日はどんな用件で?」


アラフィフの眼鏡の会社員らしき男性は、質問をしてきた中肉中背の

二十代後半の青年と向き合う。


「妹の加奈かなが、こちらに何か頼んでいたと聞いているが」


「ああ、確かある男性の居住地を突き止めて欲しい、という事でな。

 東北のとある山奥という事だったが……


 結局、狐や河童、座敷童がいただけだと聞いておる。

 特に実害も無かったので放置したと。


 まさか、戻っていないのかね?」


初老の男性の質問に彼は首を左右に振る。


「いや、戻って来ている。

 『表』の仕事である会社員も充実しているようだ。


 相変わらず『裏』の方は甘いようだがな」


「はあ。それで何か問題でもあったか?」


すると琉絆空様と呼ばれた男は、備え付けのソファに腰かけ、


「……ある男の住所を調べた。本当にそれだけか?」


「と言うと? 何か不審な点でも―――」


青年の方は両腕を胸の前に組み、会社員ふうの男は眼鏡の位置を直す。


「いや、加奈が最近、土日にどこかへ泊りがけで出かけるように

 なってだな。


 どこかで彼氏でも出来たんじゃないかなあ、って」


「……加奈ちゃんだってもう立派な大人だろう。

 彼氏の1人や2人くらいいるわい」


初老の男性が呆れながら答えると、


「やだやだやだー!!

 妹に彼氏が出来るなんて、お兄ちゃん絶対に認めない許さない

 容認出来ないいぃいいい!!」


「仕事の邪魔だから帰ってくれんか」


ジタバタと子供のように暴れる二十代後半児を前に、

初老の男はため息をついた。

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