第9話・野狐


「ねーミツー、まだー?」


「オラたち、今日の分の仕事は終わったっぺよ」


倉ぼっこと川童かわこ、妖怪Verの2人が、母屋の俺の仕事部屋にやって来て

何やら催促する。


「俺も仕事中なんだよ。何か新イベントの更新でトラブったらしくてなぁ」


運営管理という名の雑用だからな。何かあれば即対応しなけりゃならん。


「だいいち、勝手にPCでもゲームでも何でもやってりゃいいだろ。

 俺がいなけりゃならない事でもあるのか?」


例の離れの倉の『秘密基地』には―――

ネット環境も新PCもすでにセッティングしたし、俺が必要な事は

無いはずだけど。


すると人外二人は顔を見合わせて、


「ミツに会って欲しい仲間がいるんだー」


「オラたちと同じ者だべが」


思わずキーボードを打つ手が止まる。まだ人外がいるっていうのか?


「……前に話した事があるよね。僕たち妖怪は―――」


「怪異として人に認められて、初めて存在出来るんだべ」


そういやそんな事も言っていたな。

それで、隣村にいた仲間はほとんどいなくなってしまったとも。

(■3話 存在意義参照)


「俺に認められりゃ、そいつらもまだ存在出来るって事か?」


「ウン!」


「まあミツの場合は『見える』から、一度会ってもらえれば

 それだけでも多分いいっぺよ」


まあ、会うだけならいいか。それに俺が認めなきゃ存在出来なくなるって

事なら、断るのも後味が悪いしなあ……


「仕事が一段落したら行くよ」


そう俺が返すと、2人ともパァッと顔を明るくして走り去った。




「……狐、か?」


その後、会って欲しいと言われた場所まで倉ぼっこと川童に連れられて

来たのだが、そこにいたのはどう見てもただの狐で―――


野狐やこちゃん、人の姿になりなよ」


「ミツには見えているから大丈夫だべ」


人間Verの姿の人外組に促され、『彼女』は人の姿になる。

ひと昔前の着物を着たオカッパ頭の、倉ぼっこよりやや年上に見える

少女の姿に。


「ありがとうございます! おかげさまで助かりました!!

 このままではアタシ、ただの狐として生きていくところでしたよ~!」


「そうか、良かったな。じゃ、俺はこれで」


俺がそこで帰ろうとすると、


「いやいやいや! ミツ、アッサリし過ぎでしょ!?」


「もうちょっと身の上話とか聞いてあげてもいいんじゃないだべか!?」


倉ぼっこと川童が慌てて俺を引き留める。

って言われてもなぁ。これ以上俺に何しろって言うんだ?


「だって、俺が認めた事で妖怪として存在し続けられるんだろ?

 他に何かあるのか?」


俺が野狐とやらにたずねると、彼女はもじもじしながら、


「え、だって―――

 ここに来れば三食昼寝付きって聞いたんですけど」


「それは嘘です」


ガッツポーズのように構える野狐に俺は即答すると、

居候いそうろうの人外2人組の方を向く。


「あ~もう野狐ちゃん、そこは泣きながらすがりつかないと」


「いくらミツがお人好しでも、ムードというものがあるっぺよ」


「お前たちが俺の事をどう思っているかよーくわかった。

 家に帰った後で話し合おう。ちなみに言語機能は不要だ」


倉ぼっこは『えー、1人くらい増えてもいいじゃんー』

川童は『2人も3人も変わらないっぺよー』

と反発し、そんな俺たち3人を野狐はオロオロと見ながら、


「え、ええと……アタシはどうしたら」


確かに呼ばれた後で条件が違っていたらそりゃ困るわな。

ある意味彼女も被害者と言えるかも知れん。


俺は野狐に向き直ると、


「ってもなあ。他の2人もタダ飯食らいってわけじゃないんだ。

 食い扶持ぶちくらいは稼いでもらっているし―――


 ちなみに、君は何が出来るんだ?」


「ひっ人を迷子に出来ます!!」


うわぁすごくお金にならなそう。

だけど、そもそも日本の妖怪ってたいていそんなものだしなあ。

強烈な殺傷能力が無い代わりに微妙に迷惑というか。


「うーん……倉ぼっこみたいに木の実や山菜とか、川童のように

 魚や川の生き物を獲ってくるとかは?」


野狐というくらいだし、小動物くらい狩ってくる事が出来るのでは?

と期待して聞いてみるが、


「えぇ……狩りはそれなりに出来ますけどアタシ、

 血生臭ちなまぐさいの苦手で……

 出来ればご飯は人間の食事の方が」


「いや狐だろお前!!


 まぁ、取引きする獲物さえ持ってくる事が出来れば、

 それを無理に食わなくてもいいけどさ。

 こっちで調理もするし―――」


そこでやっと彼女の顔が明るくなり、


「やったね野狐ちゃん!!」


「オラは信じていたっぺよ、ミツ!!」


そう言われて俺はガシガシと頭をかきながら、


「外見は子供だからなあ。

 いくら人外とはいえ、さすがに見捨てるのは寝覚めが悪い。


 とはいえ、ちゃんと役に立てよ」


「はいっわかりました、ミツ様!!

 ところで家ではWi-Fi使えますか!?」


「お前もかよ!!」


こうして俺の居候は3人となった―――

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