第8話・捕まえ方


「ウナギ6匹にスッポン3匹……モクズガニ他沢蟹さわがに11匹ですね。

 では頂いていきます」


「よろしくお願いします」


老舗旅館『源一げんいち』から来た従業員たちが、川童かわこが獲ってきた獲物を

運び出していく。


「でもどうやって捕まえているんですか? 料理人たちが全員、

 こんな綺麗な状態の素材は珍しいって驚いていましたよ」


ウチの河童が手づかみで、とは当然言えるわけもなく。


「それに季節の山菜や山の果実がもらえるのも地味に嬉しいです。

 年配のお客様が懐かしがって喜んでくれますので―――」


そっちは倉ぼっこだ。ここで子供たちと遊んでいた事もあり、

天然の『オヤツ』としていろいろと知っていたらしい。


「じゃあまた何か入手したらご連絡ください」


「お疲れ様です」


俺は荷物を積んだ軽トラックを見送ると、家の中へと戻っていった。




「お帰りー、ミツ」


「ど、どうだっただべか?」


居間で着物姿の少年と、洋服姿の日焼けした子供が出迎える。

こうして見ると完全にただの人間だ。


「好評みたいだよ。今後もよろしく、ってさ」


その言葉に2人とも満面の笑顔になる。


「でも資源的には大丈夫なのか? り過ぎなきゃいいけど」


俺の心配に倉ぼっこが、


「獲り過ぎって他に誰が獲るのさ」


「昔は川や池で漁をする人もいたべが、今じゃ釣り人すらおらんだべよ」


続けて川童も寂しそうに語る。過疎っているからなあここ……


「じゃあ僕たちにも報酬! ご褒美ほうび!!

 次はメモリ64GBのマシンがいいなー」


「もうネットも通っているんだべ? オラ、海や川で泳ぐゲームソフトが

 欲しいっぺよ。ダウンロード版でもいいから買うべ」


「だから何でそんなに文明の利器に詳しいんだよ人外ども」


俺はいろいろなツッコミどころに頭を悩ませつつ、食事の用意に

取り掛かる事にした。




安武やすべさんのところから食材もらって来ました!

 こちらに置いておきます!」


老舗旅館『源一』の厨房に、生きたままのウナギやスッポンが次々と

運び込まれる。

それを料理人たちがのぞいたり手に取ったりして、


「しっかし不思議だなあ。どこにも傷がねぇぞ?」


料理長らしき男がウナギを手に取って、すみずみまで眺める。


「よく動画サイトであるトラップとか使っているんじゃないですか?

 ガラス製のものもあるみたいですし」


「あれだって入った魚同士でぶつかり合う事もある」


運んできた従業員の言葉を、彼は即座に否定する。


「網を使ってもそれなりに体に傷がつくし、口を見ても釣り針の跡がねぇ」


「……まさか、石打いしうちとか?」


若い料理人の一人が言った指摘に、厨房が一瞬静かになる。

石打漁という手法があり、川から突き出た岩に大きな石を打ち付けて、

魚を気絶させて獲るというものだが―――

それはほとんどの地域で禁止されていた。


さすがに違法に獲った食材を老舗で使うわけにはいかない。

運んで来た従業員も微妙な表情となるが、


「いや、ワシも真っ先にそれを考えた。

 だがさばいてみれば、違う事がわかるはずだ」


「えっ、わかるんですか?」


先ほど石打を疑った若い青年が、料理長に聞き返す。


「魚ってのはたいてい、体の側面にある側線ってヤツで音や振動を

 キャッチするんだ。


 それで敵やエサを見つけているんだが、とても敏感な反面

 デカい音や衝撃に弱い。

 それを利用したのが石打漁なんだが」


そこで彼は手にしていたウナギを元の水槽に戻し、


「ようするに死ぬほどの衝撃を与えて気絶させる、というのが石打漁だ。

 人間にしてみれば頭ブン殴って気絶させるのと大差ねぇ。


 下手すりゃそのまま死ぬ事だってあるし、表面上はキレイに見えても

 さばいてみれば内蔵が破裂していたり、身が固くなっちまっている

 事もある」


料理長の見識に厨房の全員が感心してうなずいていると、


「……だからこそこれは不思議なんだ。

 まるで泳いでいるところを、そのまま素手でつかまえたような」


彼の推測は恐ろしいほど当たっていたが―――

それを確認する術は無かった。


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