第188話・手合わせ


「う~ん」


琉絆空るきあ、少しは手加減してあげなさい。

 あなたは幼少の頃から訓練してきたんだし―――」


まだ10代前半の少女にしか見えない巫女姿の母親が、息子をたしなめる。


「母さん、これでもかなり手心を加えたつもりなんだけど」


そう言う青年の足元には、屈強な体格をした男たちが転がっており、


「……それなりに選定されたメンバーだったのですが」


刑事部長の肩書を持つアラフォーの男が呆れながら話す。


とある署の修練場―――

そこに呼ばれた弥月みつき親子は、例の新設されたあやかし対策課、

特別第六課に任命されたメンバーとの顔合わせに来ていたのだが、


その中の1人が琉絆空の腕前を見たいと言い出したのだ。


恐らくからかい半分の気持ちで提案したのだろうが、場所を変えて

手合わせする事になり……


その結果が目の前にあった。


「お兄ちゃん、大人気な~い」


「機動隊クラスでも来るのかと思っていたが、期待外れだな」


妹である加奈と、父親がその光景を見て口々に感想を述べる。


「悪い事は言いませんから、当面は後方支援に徹した方がいいと思いますよ?


 確かに、それなりに腕に覚えがあった方々なのでしょうが―――

 私たちが相手にしているのはいわば正体不明のもの。


 逃げも隠れもすれば化かし、だまし、何でもアリ。

 そういう存在を相手にするわけですから」


母親が他の女性職員と一緒に手当をして回りながら、一応配慮しつつ語る。


「後方支援は女性職員がやる事になっているのですが」


「もー今時古いって、そんな考え方!

 それに男が入れない場所とかどう考えているの?」


「そ、それはまあ……」


加奈の指摘にたじたじとなり、刑事部長は後ずさる。


「では、またメンバーの再選定を―――」


すると武人のような厳つい顔立ちの父親が、


「いや、そこまでする必要は無いだろう。

 こちらとしてもまたいちいち呼び出されるのは面倒だし。


 それに妖について理解を示してくれる人材は貴重だ。

 しばらくは琉絆空の下で鍛えるといい」


と、一応のフォローを入れ、弥月一族と特別第六課との初会合は終わった。


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