第187話・動機03
都内・某所にあるマンションの一室で―――
二十代の男女2人が、適当に飲み物に口を付ける。
「『
ショートカットの女性は短髪の細面の男に、抱き着くようにして聞く。
「さてなあ。いつだったか……
これでも真面目な社会人だったんだけどな。
ある時、企画コンペがあってさ。
それで会社の協力者? っていう社長のお気に入りがいてね」
「ふんふん」
女は
「そいつがさ。取引先に向かう前に―――
自分の事務所でプレゼンの練習をしよう、とか言い出したんだ。
まあお互いにダメ出しとか、足りないところをプレゼンを見て補って、とか。
もっともらしい言い方で提案してきてな。
そして全員のプレゼンが終わった時、そいつが『取引先の前で、1人1人
いちいち出すのはみっともないから』とかおかしな事を言いだして、
その時いた全員の企画書を自分のところに集め始めたワケ」
「あー、何かわかるわその先が」
彼は飲み物をまた口に補充した後、
「まあ俺も何となく嫌な予感はしていたんだけどな。
でもまさか、そんな事をするワケが無いだろう―――
という常識が邪魔をした」
「で?」
「予想通りのクズだったよ。
取引先でいざ企画プレゼン、となった途端、一番出来が良かったと
見たんだろう、俺の企画をさも自分のもののようにプレゼンし始めてね。
練習と称してプレゼンも見ていたからさ。その通りにドヤ顔でしゃべっていた」
彼は大きく息を吐いた後、続けて、
「結局はその俺の企画が通ったんだが……
取引先からの帰り、そいつを問い詰めたら社長が『まあ彼も緊張して
企画を取り違えたんだろう。だけどこうなってしまったからには、
彼の企画という事で進めるから』だとよ。
最初から計画されていたんだろうな」
「最悪ね。それでどうなったの?」
「……その時だ。俺が『雲外鏡』となったのは―――
俺の記憶している情景が鏡に映し出されるようになった。
自動録画機だな。
そして『その時』の鏡の映像を記録して、取引先に送ったんだ。
タイミングが予算通って本格的に開発がスタートした時というのは、
少々えげつなかったかも知れんが」
それを聞いた雪女はクスリと笑い、
「最高じゃない。それで?」
「当然、取引先からはどういう事か問い詰められたらしい。
しかし面白かったよ。
社長もそのお気に入りも言うに事を欠いて、
『盗撮だ!!』『守秘義務が!!』『個人情報保護法がー!!』だからな。
何で人間ってヤツは、自分で理不尽な事をしておいて―――
それが返って来たらご立派な人格者、道徳的な人物になるんだろうな」
「さあ? もう妖怪になった私たちにはわからない事だわ」
そして男女はお互いに笑い合い、しばらく後に部屋の明かりは消えた。
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