第48話・それぞれの伸びしろ


「あぁあ……極楽極楽♪ 2日ぶりのお風呂、もう帰りたくない~……」


風呂場から、手放しで喜ぶ『理奈りな』=倉ぼっこの声が聞こえる。


あの後、どうしても文明生活から離れたくなかった人外3人組は―――

ぬし様』に交渉を持ちかけた。


それは彼女へ差し入れを届けるという名目で、1日1回家に戻るというもので、


またこちらとしても、老舗旅館『源一げんいち』との取引が無くなるのは

困った事になるので……


理奈・『ぎん』=川童かわこ・『詩音しおん』=野狐やこ

3人でローテーションを組んで、


深夜、家に獲物を届けてもらう代わりに、家からは野狐たちや『鬼っ子』への

お土産を、日が昇る前に届ける事になったのである。


ちなみに平日であるため裕子さんは東京へ戻っており、俺は月~金の間は

人外3人組の誰かと半同棲という生活を送っていた。


「あー、風呂上がりのこのジントニックがたまんない~!」


バスタオルを体に巻いて出てきた彼女は、見た目は高校生くらいになっており

目のやり場に困る。


「酒を飲むなとは言わないからさっさと着替えろ。

 それに修行はどうなっているんだ?」


「んー、とにかく妖力ようりょくを押さえろって言われているから。

 それが最優先で、その後妖力自体を自在に上げたり下げたりする練習に

 入るって」


話を聞いてみると、まだ初歩の初歩という感じだ。


「先は長そうだなあ。

 しかし、普通の人に見られるかどうかってどうやってわかるんだ?」


「そこは主様が判断してくれるって言ってた。

 最終的には人里に出て見て、実際に人間の反応を見るらしいけど」


特定の場所で修行にはげみ、最後は実地試験か。

何か自動車の教習所みたいだな……


「他の2人は? 順調か?」


「あー、銀ちゃんと詩音ちゃんは修行次第で、いろいろな術が使えるかも

 知れないって」


「いろいろな術?」


妙なワードが飛び出て来たので思わず聞き返すと、


「銀ちゃんは河童だから、水の妖力がとても強いんだって。

 だから水の扱いがとても強力になるかもって話ー。


 詩音ちゃんは野狐という事もあって―――

 幻惑系の効果と幅が広がれば、相当強くなるって言ってた」


んー……

何かより現実離れというか、ファンタジーっぽくなってきたなあ。


「つまり銀ちゃんは水属性が、詩音ちゃんは非物理系が強くなるかもって

 事だね!」


「ゲームか! でも銀も詩音も基本的な身体能力はかなり高くなかったか?」


俺の問いに理奈は人差し指をアゴに充てて、


「まあそりゃ、人間に比べればねー。

 銀ちゃんはもともとお相撲さんに匹敵する怪力を持っているし、

 詩音ちゃんだって狩りの技術を上げれば、そのまま戦闘能力強化に

 つながると思うよー」


「何かますますオーバーキルな戦力になっているなあ―――

 ウチは何と戦うつもりなんだよ。


 ……っていうかお前はどうなんだ、理奈。

 銀や詩音のような伸びしろは無いのか?」


そう言うと、彼女はお酒の缶を置いて、


「僕は防御特化だからねー。

 妖力が上がれば自分が入った建物ならどこでも支配出来るとか、

 敵意のある者を建物内から外へ放り出すとか出来るみたい」


「それはそれでスゲぇよ。

 もうやだこの人外ども、段々人畜無害じんちくむがいから危険物になっていくじゃねーか……」


すると理奈はその無い胸を張って、


「んっふっふ。今後は僕たちの扱いに気をつけるがよい♪」


「俺がこの家売って出て行けばいいだけの話だしなあ。

 次の所有者が話が通じる人間だといいね」


「ごめんなさい調子に乗りました反省しています。

 だから出て行かないでくださいお願いします」


バスタオル1枚で土下座する理奈を見下ろしながら、


「いいからさっさと着替えろ。ったく」


そんなくだらないやり取りをしながら、夜は更けていった。


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