第47話・成長と対策


「ど、どうしたのだ!? その姿は……

 それに倉ぼっこ、そっちのお前は―――川童かわこなのか?」


その日の夕暮れ、いつものように手土産を用意し野狐やこの群れに会いにいった。

ただし野狐を始め俺、裕子さん、そして倉ぼっこと川童の全員でだ。


長老と思しき野狐は、群れの一員である彼女(男の娘)の姿にまず目を見開き、

そして一度くらいは面識があるのだろう、2人のあやかしの姿を見て驚きを

隠せないでいた。


「何という妖力ようりょくじゃあ……!」


「い、いったい何があったというのです!? ミツ様!」


長老やその他の野狐たちに問われ、俺は経緯を説明する事にした。




「なるほど……


 倉ぼっこには『理奈りな』、川童には『ぎん』、そしてあの子には

 『詩音しおん』と名付けられたと。


 恐らくではありますが、ミツ様にそう命名されたのが原因では

 ありますまいか」


長老の話によると、俺が妖たちに名前を付けたのが原因ではないかという。

そして、その事によって妖力も格段に上がっているらしい。


「俺が? 名前を付けただけで?」


「人間に認識されるだけでも、我らはその存在としての力を取り戻します。

 現にミツ様や裕子様とお会いして以来、群れの中でも人の姿になれる者が

 出始めておりますゆえ。


 さらに固有の名前を付けて頂いた事で―――

 妖怪としての力も姿も変化したのではないか、と」


う~む、と思いつつも納得せざるを得ない。


現に倉ぼっこは、10才くらいの肩まで髪を伸ばした少年のような

中性的な外見から、今は黒髪ロングストレートの女子高生くらいに、


川童は肌が浅黒いわんぱく少年が、アイドルのような目鼻立ちの

褐色肌の青年に、


野狐はシルバーの長髪に、和風の衣装に身を包んだ十代後半の楚々そそとした

女性に変わっていた。


「で、でもまあ……妖としての力が増しただけというのであれば、

 別に問題無いのでは?」


裕子さんが楽観的に語る。

まあそうだよな、弱くなったのならともかく、強くなったというのなら

別段問題は―――と思っていると、


「いや、事はそう簡単ではない」


その声に野狐の群れやみんなが声に方向に振り返ると、


「ぬ、ぬし……様」


そこには、和風な着物を身をまとったミドルショートの―――

十才くらいの女の子、『鬼っ子』がいた。




「力が強くなり過ぎている……と申されますか」


「うむ。アタシもその力を感じて山から下りて来たのだ。

 しかし、ずいぶんとその、成長したのう」


俺のところの人外3人組を見ながら、主様が感心したようにうなずく。


「それであの、力が強くなり過ぎると何か困る事でも」


俺の恋人の問いに彼女は軽くため息をつき、


「他に人がおらんで良かったのう。


 多分、そやつら―――

 お主たち以外の人間にも見られるようになっておるぞ」


その言葉に俺は息を飲み、裕子さんも他の人外たちも理解した順に

戸惑い始める。


「それは……確かにちょっとマズいかも」


「まったく人の出入りが無いというわけでもなかろう?

 旅館の者、身内―――

 いずれ誰かに気付かれてしまうやも知れん。


 うまくごまかせるのならばいいが、自信はあるか?」


その質問に俺は頭を抱える。確かにこれはちょっと問題だ。

国家機関に見つかろうものなら、良くて隔離・悪くて研究対象だろう。


「アタシもここが騒がしくなる事は望んでおらん。


 そこで、だ。

 その3人、アタシに預ける気はないか?」


「どういう事だ?」


俺が聞き返すと、主様は出された飲み物を口にし、


「要はそやつらが妖力を操る事が出来るようになればいいのだ。


 きちんと制御出来るようになれば、今まで通り普通の人には気付かれずに

 過ごす事が可能になるであろう」


願ってもない提案だが、当の3人の気持ちはどうかと思いそちらに

目をやると、


「そ、それは~……どれくらいかかります?」


「あのお風呂やトイレが無い生活って、もう耐えられない……」


「出来れば超最短でお願い出来るべか……」


見た目は変わったが変わっていない言葉使いとのギャップに、

違和感を覚えるが、そんな彼らに、


「そんなの知らんわい。お前たち次第であろうて」


その答えに、理奈・詩音・銀の3人はがっくりとうなだれた―――


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