第49話・鬼っ子の過去


「あぁ~……

 やっぱり家は落ち着くっぺぇ」


褐色の短髪の青年が、上半身裸でくつろぎながらお酒を飲む。

よくわからないがどこかに見せて金を取れそうな光景だ。


「修行はどんな感じなんだ?」


ぎん』=川童かわこに近況を聞いてみると、


ぬし様の話だと順調らしいべ。

 妖力ようりょくを下げるだけならもう出来ているらしいから、

 後は制御するだけらしいっぺよ」


なるほど。それなら早いうちにみんな帰って来る事が出来そうだな。


「その妖力とやらを制御出来たら、また子供の姿に戻るとか?」


「それも含めての制御だと言ってたっぺ。

 ただ大人の姿の方が、妖力を操る範囲が広がるらしいべ」


ふーん……銀の能力だと、水属性とか言ってたっけか。

そのうち津波とか起こせるようになるんじゃないだろうな。


「しかし、あの主様?

 裕子から聞いたんだけど、お前たちとは数十年ぶりに会ったんだって?」


「あー、確か以前会ったのはもう30年くらい前だべか。

 ミツがまだこーんなっちゃかった時だっぺよぉ」


銀が手の平を水平にしながら、床すれすれに移動させる。


「そこまで小さかった記憶はねーよ。


 しかしそれなら5・6才くらいの時か?

 その時の記憶ならありそうな気がするんだが……」


「その時はホラ、アレだべ。何とかカイハツ? っていう話がこの辺に

 持ち上がってなぁ。


 ここ100年だと、主様が自ら動いたのはその時くらいしかねぇべ」


銀の話を聞きながら、俺も自分の記憶を手繰り寄せる。


『あの山を切り崩すなど……バカな事を』


そこで爺さんの言葉がよみがえる。


「その、主様のいる山を工事しようとしたって事か?

 確か爺さんが、ゴルフ場とかリゾートとか言っていたような」


「そうそう、それだっぺ。


 いや、主様も人間が生活のために山を切り開くのは黙認していたん

 だっぺよ。

 だけど金儲けのためだけに山に手を入れようとしたものだから、

 そりゃあ怒り狂ってなぁ」


ああ、問答無用というわけではないんだ。

意思疎通は出来るんだし、別段高圧的でも無かったから―――

きちんとした理由があればそれは認める感じか。


「怒り狂って……どうなったんだ?」


「工事用に入れたブルドーザーとかショベルカーとか、

 片っ端から横転させたり壊したりしたらしいっぺ。


 最終的には地元の古老の話を聞き入れ、日本酒を供えさせて

 手打ちにしたと聞いているっぺよ」


酒で手打ちか。鬼が酒好きというのは定番だしな。


「それで開発は?」


「もちろん中止だべ。

 それ以来30年以上、誰もあの山に手を出そうとする連中はいないっぺよ。


 ただ、河川工事やいわゆる環境対策なら、今でも見逃してくれる

 はずだっぺ」


ふむふむとうなずきながら聞いていると、銀は大きなあくびをし、


「ふわぁあああ~……

 じゃ、オラはそろそろ寝させてもらうとするだ」


「また倉の二階の俺の部屋か? まあいいけどさ」


離れの倉の二階―――俺が高校時代から秘密基地のようにいろいろと

手入れしてきた部屋だが、銀はそこが気に入っているらしい。


ちなみに『理奈りな』=倉ぼっこと『詩音しおん』=野狐やこの2人は、

泊まる時はここの二階の広間を寝室にしている。


「じゃあ夜明け前に持って行くもの準備しておくから……

 明日来るのは詩音か?」


「そうだべ。じゃあミツ、よろしく頼むだよ」


そこで銀が玄関へ向かうのを見送り、俺は彼らの朝食や届ける食料などを

用意する事にした。

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