第66話・日常へ


「ただいまー、帰ったぞ」


火曜日の昼過ぎ、東京から帰ってきた俺は玄関を開けると、


「お帰り! ミツ」


「お疲れ様だべ」


理奈りなと銀がまず俺を出迎える。


「ん? 詩音しおんは?」


この場にいない野狐やこについて聞くと、


ぬし様のところだよー。

 充電した発電機を届けにいってる」


「あのトレーラーハウス、衛星通信を使えるようにしているだよ。

 そんでTVやネットに主様がハマっているみたいでなあ」


あー……

ウチの人外3人組とは違って、本格的に文明の利器に接するのは

初めてだからなあ。


「TVはともかく、ネットは大丈夫かな。

 ウイルスやフィッシング詐欺に引っかかったりとか」


居間に移り、俺が手荷物をおろしながら近況を聞くと、


「それは僕が子供用のセーフサーチ設定にしてきたから。

 それに3人の内誰かが行く度に確認しているし」


理奈の答えに、俺はン? と首を傾げ、


「確かお前、管理者権限まで乗っ取れるんじゃなかったか?

 あ、それともやっぱり主様の物を支配するのは恐れ多いとか―――」


すると理奈も銀も顔を少し青ざめさせ、


「え~っとぉ、主様は自分のPC触られるのすっごく嫌がるんだよね……」


「すごくいい笑顔で、『履歴ボタンは絶対触るなよ?』って言われた時は、

 少しらしたべ……」


何やってるんだ、主様。


「まあネットやTVはいいとして―――

 他に何してるんだ?

 確か、簡単な料理もやっているとか言ってなかったっけ」


すると今度は2人とも微妙な表情になり、


「山の食材を自分で調達し始めたよー」


「イノシシや鹿が近くの木に吊るされているのを見た時は、

 本気でビビったべ。


 解体もネットとか見て覚えているみたいっぺよ」


何やってるんだ、本当に。

それなりに充実しているようで何よりだけど。


「ミツ様ー! 戻って来たのですね?

 猪肉ししにくのおすそ分けを主様から頂きましたので、今夜

 食べましょう!」


そこで詩音の声が玄関から聞こえ、ようやくいつものメンバーが

揃ったかと実感する。


「あれ? 奥方様は?」


「裕子なら金曜の夜に来るよ。先週は俺が金曜日に東京へ向かったからな」


『島村建設』との一件が終わって以降……

金曜の夜に彼女が来た時は、月曜の朝に一緒に東京へ。

そして俺だけが火曜日にこちらへと戻り、今度は俺が金曜の夜に東京へ向かう

ルーティーンとなっていた。


「そうですか。お仕事はどんな感じです?」


「そうだなあ……それはそうと、お前たち昼食はまだか?」


詩音との受け答えに、理奈と銀は元気よく手を挙げて、


「はーい、まだでーす!!」


「ミツが帰ってくるのはわかっていたから、まだ朝食しか食べて

 いないだべよ」


「まったく……それなら何か作るから、食事がてら話そう」


そこで俺はいったん自室に戻った後、台所で軽く料理をする事にした。


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