第67話・転職後・武田視点06


「ふぅ、やっと彼が仕事に本格的に関わるようになりましたね」


東京のとあるオフィスビルの一角で、私は一息ついていた。


安武やすべ満浩みつひろさんをヘッドハンティングしてからおよそ一ヶ月。

当初はトラブルもあり、なかなか顔合わせも出来なかったけど……

この職場にも何度か出勤して、メインはリモートでもそれなりにチームと

意思疎通が出来てきた―――と思う。


「自分は最初、緊張しましたけどね。

 何せあの兄の方を先に見てしまっているので……」


部下の一人が私の言葉に返してくる。

確か彼は、満浩さんをヘッドハンティングする際に一緒に来ていて、

その際にあのお兄さんバカとも会っている。

(■1章6話 望まぬ訪問者参照)


「アレと比べたらどんな人でも聖人君主せいじんくんしに見えるわ。

 それでどう? 一緒に仕事しても大丈夫そう?」


他の部下たちもそれを聞いて苦笑し、


「そうですね。

 人当たりはいいですし、何より経験が豊富そうで安心出来ます」


「意見は否定しませんし、代案や方向性を示してくれますから。

 それがあるだけでも」


「あの方―――以前、ウチが共同開発やった会社にいたんでしょう?

 何で出てきちゃったんでしょうね」


部下たちの評価もそれなりに上々のようで安心する。

それに現場と上層部の評価が乖離かいりしているというのは、往々おうおうにして

よくある事。


今はサブリーダーという位置付けだけど……

ゆくゆくはプロジェクトマネージャーになってもらう予定でもある。


「でも今は、これといってどこか専用の担当があるような感じでも

 無いんですよね?」


一緒に仕事して2年くらいの若い女性社員―――

弥月みつきさんが質問してくる。

確かにそう言われると、今のところ雑用係という感は否めない。


「そうね。プログラマーやグラフィッカーとか専門技術があるわけでは

 ないけれど……

 スクリプトやラフ画、シナリオも担当していた事があるので、

 大体のヘルプには入れるわ」


「別名『小人さん』というポジションですね、わかります」


「『小人さん』にしちゃ、ちょっと大き過ぎるかなあ」


言い得て妙な表現が飛び出し、私が思わず吹き出すと―――

それを皮切りに職場に笑い声が広がった。


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