■6章 人間ベース

第151話・人間?02


「……ありがとよ。へへへ……」


男が口の中に薬を放り込むと、急に笑い出し、


「薬を飲ませてくれてなぁ!!」


「ッ!?」


それまで組み伏せられていた男は、突然その拘束から逃れ―――


「きゃっ!?」


「な、何!?」


女子高生たちも驚いて声を上げる。


「そんな!? アタシの力を振りほどくなんて!?」


詩音の今の実力は、あやかしの中でも上位クラスであり、人間に

後れを取る事など考えられず……


「ちょ、ちょっと……おじさん、変じゃない?」


瑠奈るなが指差しながら指摘すると、水樹みずき一花いちか

そちらを見て硬直する。


そこには、ミュージカルの着ぐるみのように毛むくじゃらとなった

男がいて―――

口からは牙がのぞき、その手もすでに人間のそれではなく異様に爪が

とがっていた。


「お、狼男……!?」


「……いったい、何が起きているの……!?」


ただ怯える少女たちとは対照的に、変身を遂げた男は下品そうに笑う。


「ぐひっひひひぃ……♪ やっぱりこの姿は最高だぜぇ!


 さーて、世話になったなぁそこの姉ちゃん。

 お礼させてもらうぜ!」


詩音は動じず態勢を立て直して、


「アタシこそお礼を言わせてもらうわ。


 妖相手なら―――手加減しなくてもいいって事だし」


「あ?」


その言葉と同時に、女性陣の中で一番年長者である彼女の体は

淡い光に包まれ、


「……!」


詩音の正体がえる瑠奈だけはその現象を認識したようで、

息を飲む。

そしてその刹那せつな


「……がっ!?」


少女たちが気付いた時には、半人半獣のようになった男のボディ、

下腹あたりに―――

詩音のひざが入っていた。


そのまま彼は内股になって崩れ落ち、路地裏に静寂せいじゃくが戻る。


「ふぅ、もう大丈夫よ」


野狐やこである彼女は一息ついて、3人に振り返るが、


「あ、あの?」


「詩音お姉さま、その……耳と、しっぽ?」


2人の少女は詩音を指差しながら目を丸くして、


「え? も、もしかして―――

 水樹ちゃんと一花ちゃんも、アレ視えるようになったの!?」


女子高生3人の目には……

妖である詩音の、見事な狐耳としっぽが見えてしまっていた。


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